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 参議院本会議  私立学校法改正案について

2004年04月21日 


○国務大臣(河村建夫君)

 私立学校法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
 学校法人が、少子化等社会経済情勢の変化を始め、法人諸制度の改革、規制緩和の進展など学校法人をめぐる近年の状況等に適切に対応し、様々な課題に対して主体的かつ機動的に対処できるようにすることが重要になっております。このため、私立学校の自主性を最大限尊重する現行制度の基本に立ちつつ、各学校法人における管理運営制度の改善を図るとともに、財務情報等の公開を一層推進する必要があります。また、各都道府県における私学行政の一層適切な執行に資するため、その実情に即して私立学校審議会を構成することができるようにする必要があります。
 今回御審議をお願いする私立学校法の一部を改正する法律案は、以上の観点から、学校法人制度及び私学行政の改善を図るものであります。
 次に、この法律案の内容の概要について御説明申し上げます。
 第一に、学校法人の理事会制度に関する規定を整備するなど、理事、監事及び評議員会の制度について、それぞれの権限や役割分担を明確にして、学校法人の管理運営の改善を図るものであります。
 第二に、学校法人自らが財務情報等を公開し、説明責任を果たすため、財産目録、貸借対照表等の財務書類や事業報告書及び監査報告書を利害関係人からの要求に応じて閲覧に供することを義務付けるものであります。
 第三に、各都道府県に置かれている私立学校審議会の委員について、その構成、推薦手続等に関する規定を削除し、教育に関し学識経験を有する者のうちから都道府県知事が任命することとして各都道府県の判断にゆだねるものであります。
 このほか、所要の規定の整備を行うことといたしております。
 以上が法律案の趣旨であります。(拍手)

○議長(倉田寛之君)
 ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。発言を許します。鈴木寛君。

   〔鈴木寛君登壇、拍手〕

○鈴木 寛
 民主党・新緑風会の鈴木寛でございます。

 私は、民主党・新緑風会を代表し、ただいま議題となりました私立学校法の一部を改正する法律案に対し、河村文部科学大臣に質問いたします。

 学校教育において私学の占める割合は、学校数、学生数とも、大学では八割、高等学校でも三割、幼稚園の八割となっており、特に我が国の高等教育、幼児教育は私学抜きに語ることはできません。

 国立大学主体のヨーロッパはもとより、米国ですら私学の学生数は三五%でありますから、日本における私学の役割がいかに大きいかがよく分かります。

 まず、文部科学大臣に質問をいたします。

 そもそも、大臣は、私立学校はだれのものだとお考えですか。創業者のものですか、教職員ですか、卒業生のものですか。大臣のお考えをお聞かせをください。

 私は、私立学校とて、そこで学ぶ学生、生徒、児童、園児のものであり、かつ社会の公器であるべきだと考えております。

 しかしながら、大臣所管、都道府県知事所管合わせて七千八百六法人に上る私学の実態を見ますと、平成十四年の帝京大学医学部における寄附金簿外処理問題、酒田短大における中国留学生問題などの不祥事は氷山の一角で、ワンマンな創業者や卒業生の一部がその利権や既得権を守るために大学や学校という公器を私的に利用している実態も見受けられます。

 そうした中、私学政策の基本法である私立学校法について、一九五〇年の施行以来初めての抜本改正を行うという動きに対しては、問題山積の私学経営を根本から改善させていくきっかけとして、かなり期待が高まっていました。しかし、それだけに、今回の改正案はやや期待外れの感も否めません。

 今回の改正案は、責任体制の明確化、経営情報の公開、学校新設のボトルネックであった私立学校審議会の改革などに第一歩を踏み出したという点では評価できるものの、ガバナンス強化にかかわる本質的な部分についてはそれぞれの学校法人が策定する寄附行為にゆだねるといった内容になっています。現在の私学が作る寄附行為が現状追認的なものになるということは目に見えており、今のよどんだ私学経営を立て直すには踏み込みが不十分と言わざるを得ません。

 建学の精神と私学の自治を尊重するといっても、尊重しなければならないのは精神の方であって、建学者の親族や卒業生や職員の私的な利益であってはなりません。経営者、教職員、卒業生、学生、保護者、社会など、私立学校に関係するそれぞれのステークホルダーが参画し、健全でダイナミックな運営を可能とするガバナンスの実現という観点から、より踏み込んだ私立学校法人制度をこの際構築すべきであると考えます。とりわけ、学生や市民社会の意思がもっと反映されるメカニズムを取り入れるべきであると考えますが、大臣の御意見を伺います。

 現行法は学校関係者と卒業生の意向が強く反映し過ぎる仕組みになっています。すなわち、私立学校法第四十四条は、評議員の選任に当たって職員と卒業生から選出するとの規定があります。さらに、同法第三十八条により、評議員の中から理事が選任されることとなっております。加えて、現行法では役員、評議員について任期の定めがありません。

 今回の改正で、役員の任期、選任、解任については寄附行為で明記するよう義務付けたものの、任期と解任については基準が明記されず、その内容はそれぞれの学校法人にゆだねられていますし、評議員については何ら改正がなされておりませんが、その理由をお聞かせください。

 さらに、今回、私立学校振興助成法の改正が検討の俎上に上っていないことも解せません。

 現在、同法を根拠として、平成十六年度予算で四千七百五十五億円に上る税金が私学に投入されています。この額自体については、先進国中下位にある高等教育費への国費投入の実態、さらには私立大学生の一人当たりの税金投入額はわずかに十五万円であり、国立大学の学生の約十五分の一に満たないという実態を踏まえ、知恵の国日本をつくるためには、是非とも私学への税金投入は増額すべきだとは考えます。しかし、助成資金を文部科学省及び事業団を通じ直接学校法人に交付するという資金の流れについては抜本的な見直しが必要だと考えます。

 私は、私学助成金は廃止して、交付金額を大幅に増加させた上で、学校法人にではなく、学生一人一人に対してクーポンやバウチャーという形で国から直接交付し、学生はそのクーポンやバウチャーを授業料の一部に充当して納付するという形式に改めるべきだと考えております。こうした制度に改めることによって、現行では学校経営に対してほとんど発言力を有しない学生の意向が経営に反映されるきっかけにもなりますので、文部科学省においても、私立大学の学生へのバウチャー・クーポン制導入について御検討いただきたいと存じます。

 現行の私立学校法によって温存された同族支配、同窓会支配と私立大学への助成金交付制度とが相まって、国民生活に多大な悪影響を与えているのが医学、歯学の分野であります。

 医師の四割、歯科医師の七割五分、薬剤師の八割を私学が養成しています。医学系教育は多額の費用を要しますが、私学助成金の約三分の一が医学部、歯学部を有する大学に対して交付されています。私学助成金制度を改革する上で、私学の医学部、歯学部改革の議論は避けて通れません。

 私学、国公立を問わず、大学の医学部、歯学部には多額の資金が流れ、様々な権限が集中しています。病院を含む医学部等の運営に当たっては、本来、透明性、公正性が強く求められるべきであるにもかかわらず、大学の医局や校友会、同窓会などをベースとして、医学部卒業生による閉鎖的なヒエラルキーが存在し、その頂点に立つ一部の人たちが人事、設備投資、研究費配分、医師派遣・あっせんなどについての決定権を独占しているのが現状であります。特に、私立大学の場合、国家公務員法の適用もなく、不明朗、不公正な運営が起こりやすい土壌にあります。

 現在、大問題となっている日本歯科医師会事件においても、歯科医師会会長選挙における当選の決め手は各大学歯学部の同窓会の支持固めであったという報道からもよく分かるように、医学部、歯学部における同窓会組織は、他の学部のような、いわゆる若き青春の日々を懐かしみ、旧友たちとの友情を深め合うという同窓会とは全く異質なものとなっております。

 私立学校法の規定によって、有力卒業生が自ら評議員、理事として法律上の明白な経営権限を有し、一方で医学部教授も卒業生ネットワークの支持を取り付けた人物が選挙によって選ばれ、教学についての実権を有しています。このようにして、大学医学部、歯学部を基点として卒業生ネットワークの利権集団化が促進をされているということは、健全な医療、健全な私学経営を推進していく上で極めて重大な問題と考えられます。

 このような観点から、私立大学の医学部、歯学部に関し、その適正な運営がゆがめられていないか、この際、改めて調査検討していただくべきだと思いますが、文部科学大臣の見解を伺います。

 同族支配、同窓会支配の弊害は、大学の医学部だけではありません。

 近年、私学を取り巻く環境は少子化の進展により極めて厳しくなっており、入学定員未充足の大学が百五十校余り、短大が二百校近くという状態がここ数年続いております。私立高校における学則定員に対する在籍生徒数も今や八割程度にとどまっております。あと数年で大学、短大への入学志願者に対する収容力が一〇〇%に達する、いわゆる大学全入学の時代の到来を迎え、いずれの私学も根本的な経営改革の必要性に迫られています。

 一方、近年、私学設置基準の緩和や、学部、学科の新設、改編の弾力化などの措置が取られ、私学経営の自由度が増し、創意工夫を発揮し得る可能性は急速に高まり、学校現場における改革への機運は盛り上がりつつあります。そうした改革の流れの中で、厳しい将来を見通した場合、各校ごとの経営改革努力だけでは早晩限界が見えてくると思われます。その場合、学校法人同士の思い切った合併、連携といった組織再編も不可欠となってきますが、その際、創業者一族や一部の卒業生などが機動的な私学再編の足を引っ張るという事態も容易に想定できます。

 近い将来続出するであろう私学の経営危機に対し、大臣はどのように対応をしていかれるおつもりでしょうか。創業者一族のエゴや卒業生のノスタルジーによって、私立学校に現在通う学生の学習権がないがしろにされたり税金が無駄になってしまうことがないよう、文部科学省のリーダーシップを強く期待をいたします。

 私学ビッグバンが予想される中で、新規参入の障壁となっていました私立学校審議会の委員構成が見直されることになりました。遅きに失したというのが率直な感想ですが、この改正も中途半端なものと言わざるを得ません。

 すなわち、今回の改正で、都道府県知事が委員構成を自由に決められることになりましたが、特段の変化がない県も多いのではないかと危惧をせざるを得ません。

 文部科学省として、そもそも私立学校の新設を促進したいのかそうでないのか、その方針をもっと明確に打ち出すべきだと思います。今回の改正では、文部科学省が単に規制改革推進会議からの宿題を処理して、そのツケを都道府県知事に押し付けたと批判をされてもやむを得ないと思います。

 私は、マーケットが縮小する中で、真に学生の学びを守っていくためには、不健全な経営体の延命より、むしろ新陳代謝を促進することの方が組織の自浄能力を早めに発揮させ、余裕を持ったスムーズな経営陣の交代を促し、結果として学生のためになると思っておりますが、大臣の見解を伺います。

 そこで、更に提案ですが、私立学校の学生に関するクーポン・バウチャー制の導入と相まって、私学設置については、設置基準をクリアしていることの確認は前提として、その設立については原則自由にすべきであると考えますが、いかがでしょうか。大臣の見解を伺います。

 学校設立を抑制しなければならない理由は、私学助成金を新設校にも配らなければならないという点にありましたが、助成金制度を廃止し、学生へのバウチャー・クーポン制を導入した後であれば、学校の設立そのものを規制する必要性はなくなりますし、同時に学生へのセーフティーネットは確実に確保されます。

 そもそも、学問の自由、学習権、結社の自由は憲法上保障された権利であります。そうした憲法上の要請にこたえるためにも、私学建学の自由を認めるということは極めて重要であると考えます。教育基本法を始め関連法制の抜本見直しと併せて、真剣にこの私学建学の自由について検討をしていただきたいと思いますが、よろしくお願いを申し上げます。

 私学行政は、我が国教育政策の極めて重要な柱の一つであります。私学を取り巻く厳しい環境を乗り越え、さらに、二十一世紀にふさわしい人材を輩出し得る私学を今後とも健全に育成していくことは、正に知の国、人の国日本を創造していく上で極めて重要な課題の一つであります。文部科学大臣の明確な時代認識に基づいた、英知と勇気にあふれた私学改革への決意を最後にお伺いをして、私の質問を終わります。(拍手)

   〔国務大臣河村建夫君登壇、拍手〕

○国務大臣(河村建夫君)
 鈴木寛議員から八点の質問をいただきました。お答えいたします。
 第一点は、私立学校はだれのものかという点についてお尋ねをいただきましたが、私立学校はそれぞれの建学の精神に基づいて個性豊かな教育活動を主体的に行う、これが特色でございます。私立学校の設置者は学校法人でありまして、原則として学校の設置管理に関する権限と責任は学校法人にゆだねられておるものであります。
 一方で、私立学校も教育基本法に定めます公の精神というものを有しておりまして、その公共性を高めることが期待をされておるわけであります。利用者や社会の多様なニーズを踏まえて、学校運営の改善に不断取り組む、このことが極めて重要なことで求められている点であろうと、このように思っております。
 第二点は、私立学校の運営に学生や一般市民の意見を反映する仕組みを取り入れるべきではないかと、こういうことでありました。
 学校法人が利用者や社会の多様なニーズを踏まえた学校運営を行っていく、これは極めて重要な点であります。これらを反映させるための具体的な仕組みについては、国が一律に定めるということではなくて、各学校法人がそれぞれ創意工夫をいただきながら取り組むべき課題ではないかと、このように考えております。
 第三点は、役員の選任、解任、任期などの見直しと評議員の見直しについてお尋ねでございました。
 役員の選任や解任に関する具体的な手続や要件、これにつきましては、各学校法人の運営方針や独自性、あるいは法人の規模によって様々在り方が考えられます。その点で、私学の自主性を重んじる私立学校法の精神にかんがみて、所管庁であります国あるいは地方公共団体の関与は限定的なものとして、各学校法人にゆだねるということにいたしているものであります。
 また、評議員については、理事、監事といった役員ではございませんので、具体的な手続について法律による義務付けまでは行わなかったものでございます。
 第四点は、私学振興助成法を改正して、学生一人一人に対してクーポンやバウチャーという形で国から直接交付することはどうかというお尋ねでございます。
 まず、現行の私学助成制度、これまで、学生等の修学上の経済的負担の軽減、あるいは私立大学に対する教育研究条件の維持向上等にこれまでの私学助成制度が大きく貢献してきた、また今後とも私学振興に欠かせない制度であると、こういうふうに考えております。
 そこで、いわゆるクーポン・バウチャー制度についての導入の問題でありますが、この制度につきましては、現時点、必ずしも確立した方法はあるわけではございませんで、国際的にもその実施は極めて限定的にとどまっておりまして、いまだその評価も定まっておりません。こういう状況下にございますので、これを導入する場合には、私立大学等に限ったとしても、執行上の効率性の問題など検討すべき課題が非常に大きいわけでございます。
 現時点では個々人に対しましては奨学金の充実という形で対応しているわけでございますが、御指摘の問題は今後の研究課題でもあると、このように認識をいたしておるところであります。
 次に、私立医学教育において、同窓会、卒業生が、評議会、理事会を通じて経営へ過度な影響力を行使して、その適正な運営を妨げていないのか、調査検討すべきではないかとの御質問でございました。
 学校法人制度が建学の精神に基づいて教育研究を実現する一つの方向として、卒業生を評議員あるいは理事として学校運営に参画させることが予定されておるところでございまして、ただ、その影響力の行使のみをもって法人経営が適切でないとまでは断言できないものであると思います。
 今回の改正案におきましては、理事会、評議員会あるいは監事について、それぞれの権限や役割分担を明確にして学校法人の管理運営の一層の改善を図ろうといたしておるものでございまして、なお、学校法人の管理運営について、全般にわたって再点検を行う、そして従来からの慣行にとらわれることなくて、不断に改善されますようにということで、事務次官通知を発するなどして指導してきたところでございます。
 次に、私学経営の危機への対応と、私学の参入促進、新陳代謝をどのように促していくかという質問でございました。
 御指摘のとおり、少子化時代を迎えておりまして、私学を取り巻く経営環境、非常に、だんだん厳しい状況下にあることは御指摘のとおりであります。今後ともこの状況が続くと考えなければなりません。そういう意味で、私学の経営基盤の安定、充実を図っていく、そのためには個々の学校法人の経営努力や主体的な取組が第一に求められるものであります。また、合併等の再編あるいは組織の新陳代謝、こういうことについても学校法人が主体的に判断をされていかなきゃならぬと、このように考えております。
 文部科学省といたしましては、多様で魅力ある私学の参入を促して私学教育の活性化を図る一方では、経営困難な学校法人について、学生の就学機会の確保を最優先に考えていかなきゃなりません。そうした面での経営改善あるいは事業の見直し等、適切な指導、助言にこれからも更に努めてまいりたいと、このように考えております。
 第七点として、私学設置につきましては、設置基準をクリアしていることの確認は大前提として、設立そのものは原則自由化すべきではないかという御指摘でございます。
 学校の設置認可制度、学校としての必要最低限の質を保証するとともに、その公共性、継続性、安定性、これを確保する、こういうことは非常に重要なことでありまして、設置認可を完全に自由化という考え方、これは難しい課題ではないかと考えておるわけであります。しかし、学校として求められる基準というもの、これは時代の進展に応じて適時見直していかなきゃなりません。改善も行っていかなきゃならぬ。御案内のように、特区においては株式会社の参入という新しい面も出てまいりました。こういうことでありますから、私立学校が特色ある学校教育を一層展開すると、こういう観点に立って更に検討を重ねていかなきゃならぬ、このように考えております。
 最後に、そういう様々な現況下において私学経営をいかにこれから改革していくか、私学改革をどういうふうにしていくかというお尋ねがございました。
 私立学校は少子化の時代にいかに対応していくか、これに適切に対応しながら、一方では公教育としての大きな役割を果たしておる、今後とも私学は健全な発展を続けていく、そのことが日本の未来にとって極めて重要であるという認識、私も持っておるわけでございます。こういう観点から、今回の改正におきましては、学校法人が様々な課題に主体的に、また機動的に対処できるように、特に管理運営の改善を図る、そしてその説明責任を果たす、この改善を行うことが必要だという観点に立って改正案を皆さんにお諮りしておるわけでございまして、こうした観点から、様々な私学振興策の推進を取っていきながら、私学、私立学校が社会への信頼、評価、一層高めていく存在であるように、一層努力をしてまいりたいと、このように考えておるところでございます。


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