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 参議院本会議  行政事件訴訟法一部改正について

2004年05月19日 



○国務大臣(野沢太三君)

 行政事件訴訟法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 現行の行政事件訴訟法は、昭和三十七年に制定されたものでありますが、近年においては、行政需要の増大と行政作用の多様化に伴い、行政による国民の利益調整が一層複雑多様化するなどの変化が生じており、このような中で、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る必要性が指摘されております。
 この法律案は、このような近年における変化に対応し、行政事件訴訟について、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から、国民の権利利益の救済範囲の拡大を図り、審理の充実及び促進を図るとともに、これをより利用しやすく、分かりやすくするための仕組みを整備し、さらに本案判決前における仮の救済の制度の整備を図ること等を目的とするものであります。
 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。

 第一に、行政事件訴訟による国民の権利利益の救済範囲の拡大を図ることとしております。
 まず、取消訴訟の原告適格についての適切な判断が担保されるようにするため、処分又は裁決の相手方以外の第三者について原告適格の要件である法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとするなどの事項を定めることとしております。また、救済方法を拡充するため、抗告訴訟の新たな訴訟類型として、義務付けの訴え及び差止めの訴えを定め、これらの訴えについてその要件等を規定することとしております。さらに、当事者訴訟としての確認訴訟の活用を図るため、当事者訴訟の定義の中に公法上の法律関係に関する確認の訴えを例示として加えることとしております。

 第二に、審理の充実及び促進を図るため、新たに、裁判所が、釈明処分として、行政庁に対し、裁決の記録又は処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができる制度を設けることとしております。

 第三に、行政事件訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組みを整備することとしております。
 具体的には、まず、抗告訴訟の被告適格者を行政庁から行政庁が所属する国又は公共団体に改め、被告適格の簡明化を図ることとしております。また、国を被告とする抗告訴訟について、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起することができることとして管轄裁判所を拡大するとともに、取消訴訟について、処分又は裁決があったことを知った日から三か月の出訴期間を六か月に延長することとしております。さらに、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間等を書面で教示しなければならないものとしております。

 第四に、本案判決前における仮の救済の制度の整備を図ることとしております。
 まず、執行停止の要件については、損害の性質のみならず、損害の程度並びに処分の内容及び性質が適切に考慮されるようにするため、回復の困難な損害の要件を重大な損害に改めるとともに、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっての考慮事項を定めることとしております。また、新たに、仮の義務付け及び仮の差止めの制度を設けることとしております。
 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。
 以上がこの法律案の趣旨であります。(拍手)
    ─────────────

○議長(倉田寛之君)
 ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。発言を許します。鈴木寛君。

   〔鈴木寛君登壇、拍手〕

○鈴木 寛
 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました行政事件訴訟法の一部を改正する法律案について質問いたします。
 行政事件訴訟法は、制定後、実質的な改正がなされないまま、実に四十年以上が経過いたしました。司法と行政との関係を規定する国家の基本法をこの本会議において質問をさせていただく機会を得ましたことは、大変光栄に存じております。
 しかしながら、我が国の統治機構の根幹を成す本法の改正案を我々国会議員が相互に議論をするのではなく、議員が内閣に対して質問をしている、この現実を我々は反省の念を持って受け止めなければならないと思います。
 すなわち、そもそも憲法という言葉が意味するところは、国家の在り方、運営の基本に関する規範という意味であり、単に明文の憲法典のみを指すのではございません。行政事件訴訟法は、行政によって侵害された国民の基本的人権の回復と、司法と行政との関係を直接的に規定するという、この二つの点において、文字どおり憲法附属法の最たるものであります。もちろん、憲法附属法とはいえ、法形式自体は法律でありますから、内閣の法案提出権が法律上否定されているわけではないという法技術論については私も十分承知をいたしておりますし、また、司法改革の内容をここまで練り上げていただいた佐藤幸治先生を始めとする関係者の御努力には率直に敬意を表します。
 しかし、私が問いたいのは、憲法附属法の改正までも官僚に丸投げをしてしまう与党の見識と気概の欠如であります。
 憲法改正の発議権が内閣にはなく国会議員にのみ付与されている憲法の精神に照らし、まして、国会で憲法調査会を作り憲法論議が高まっている今日、三権を構成する行政と司法の関係について、これは国権の最高機関に所属する我々が自ら成案を作り上げ、そしてそれを議論をするべきだと私は信じておりますが、皆さん、いかがでありましょうか。
 しかも、本法案の衆議院での質疑時間はわずかに十三時間であります。要するに、この国家の基本である重大な憲法秩序の修正が、十分な国会の審議すらないまま官僚の手で淡々と行われているということであります。正に、この国の実質的主権者がいまだに国民ではなく官僚であるという統治構造は戦前と何ら変わっておりません。
 この点について、政府見解の代弁ではなく、野沢太三先生の参議院議員としての御意見がございましたら、お伺いをしたいと存じます。
 そもそも、戦前、政党政治家たちの反対がありながら、我が国が不幸な戦争に突入していったその最大の原因は、大日本帝国憲法が定めた統帥権の独立規定にありました。
 戦後、日本では、統帥権に代わって行政権の独立が憲法附属法によって依然強固に守り固められています。安全保障についても、民意の全く届かない内閣法制局が下す憲法解釈が憲法秩序の骨格を成し、歴代の政権がそれに縛られ、国会が振り回されてきました。
 我々が、戦後政治を振り返り、国家の基本法を見直すときに最も重視すべきは、我が国が、いまだに行政裁量の恣意性に対して裁判所も議会もそれを抑止する十分な歯止めになっていないという厳然たる事実であります。
 現行憲法の進化、発展を図るとすれば、その第一の目的は、官僚主権を脱し、真の国民主権を実現することであり、とりわけ行政を民主的統制と正義による法の支配に服さしめることであります。
 本来、行政訴訟制度とは、主権者たる国民がその権力を一時的に信託した行政府が行う違法又は不当な行政活動を抑止し、是正し、そして正義を実現、回復するための制度であります。その意味で、行政訴訟は、選挙と並んで真の国民主権と法の支配を支える根幹的な制度であります。
 しかし、現状では、行政事件訴訟における被告適格や原告適格が極めて限定的なため門前払いされるケースが多く、やっと裁判にこぎ着けたとしても、行政を慮る我が国の裁判所の消極的姿勢から原告が敗訴する場合が圧倒的に多くなっています。
 我が国の行政訴訟の第一審受任件数は年間二千件余りで、ドイツの二百分の一、アメリカの十六分の一、さらに台湾の八十五分の一、韓国の二十八分の一と極めて少なく、原告の勝訴率は一部勝訴を含めてもわずか二〇%に届きません。
 こうした実情に対し、行政訴訟はやるだけ無駄だという絶望感が広まるのも当然であります。本来公僕であるはずの官僚機構に主権者たる国民が泣き寝入りを強いられているのであります。
 今回の改正案によって、今まで退けられてきた案件がどの程度訴訟として成立をし、どのような救済措置が可能になるのか、政府の見解を求めたいと思います。
 次に、原告適格の拡大について伺います。
 原告適格については、法律上の利益の有無ではなく、利害関係の有無によって判断すべきだと我々は主張してまいりました。改正案にこの見解が盛り込まれなかった理由を法務大臣に伺います。また、改正案によって新たに原告適格を得ることになる訴訟の具体例をお示しください。
 次に、執行停止の要件について伺います。
 現行法の厳格な執行停止要件の下では、執行停止制度が機能しない場合が多々あります。例えば、公共事業の早期の段階での行政活動を審査対象として認めておりませんので、訴訟提起時点では既成事実が形成をされてしまっており、実効的な司法救済が得られません。また、仮に違法判断がなされたとしても、それに伴う社会的、経済的コストが極めて甚大になるという問題が生じております。
 改正案で、重大な損害を避けるため緊急の必要があるときに要件が変更をされてはおりますが、どのような事案が具体的に重大な損害と判断をされるのか、法務大臣の御説明を伺いたいと思います。
 次に、出訴期間の延長について伺います。
 出訴準備のための期間が六か月に延びたことは一定の前進であります。しかしながら、私たちは、個別法において必要な範囲で必要な者に対して審査対象となる行為を明示すべきである、その出訴期間をそれぞれに明示すべきであるというふうに考えております。出訴期間を一律に六か月とすることが望ましいと御判断をされた理由を法務大臣に伺いたいと思います。
 次に、訴訟関係の資料提出要求の効力について伺います。
 国民と行政との間の情報格差、つまり訴訟に関する資料の多くは行政側が所持し、非公開が多いのが現実であります。改正案では、訴訟関係を明瞭にするため、裁判所が行政庁に対して、処分又は裁決の内容、根拠となる法令の条項、原因や理由を明らかにする資料などの提出を求めることができる規定が新設をされております。
 行政庁が裁判所の要求に応じなくてよい例外があるのか、また、仮に要求に応じなかった場合にどういう処置が取れるのか、大臣に御説明をいただきたいと思います。
 次に、裁判の管轄について伺います。
 改正案では一定の拡大は認められておりますものの、まだなお高裁所在地まで通わなければならず、国民の経済的負担が残ります。原告の住所などを管轄する地方裁判所への出訴を認めるべきだと考えますが、大臣の見解を伺います。
 また、原告が支払う訴訟費用については、経済的負担軽減の観点から、行政訴訟提起の手数料の一律低額化を検討すべきではないかと考えますが、いかがでしょうか。
 さらに、今回の改正で多くのことが見送られております。そうした事項についても早急に検討し、抜本改革を目指すべきだと私たちは考えております。
 我が国では、市民団体やNPOが社会でますます重要な役割を果たすようになっております。行政訴訟の原告適格を有する個人が常に存在するとは限らず、そうした現状にかんがみますと、団体が行政訴訟によって保護を求めているものであれば、広く柔軟に原告適格を認めるべきとの声が強まっております。さらに、消費者保護や環境保全など拡散的、集団的な利益を守る必要がある分野については、とりわけ民間公益活動を行う団体を念頭に置いた団体訴訟制度を早期に個別法において導入すべきであるというふうに考えます。
 今回の法改正ではこの団体訴訟の導入が全く見送られておりますが、この早期導入に向け、法務大臣の見解をお尋ねをしたいと思います。
 また、納税者訴訟の創設について伺います。
 国民が納税者として、自分たちが支払った税金の使途をチェックすることがいかに重要かは言うに及びません。地方自治レベルでは、住民訴訟制度が積極的に活用され、談合事件など、税金の使われ方をチェックする上で一定の機能を果たしております。国のレベルでも、国民が税金の使途の違法性をチェックする機能を確保、強化すべきであるというふうに考えます。
 そこで、国民に対して、一定の要件の下に会計検査院に対して公金支出の違法性のチェックを求める請求権を与え、会計検査院の対応に不服がある場合には行政機関に対して直接その是正を求める行政訴訟を提起できる納税者訴訟制度を創設すべきであると考えますが、大臣の見解を伺います。
 さらに、独立検査・監視機関による訴訟制度の創設も必要であると考えます。一市民が行政機関を相手に調査を行い訴訟を提起するということは極めて困難であります。そのことにかんがみますと、行政から独立の検査・監視機関によって行政をきちっとチェックする、そうした仕組みが必要であると考えます。そのために、立法府に調査権、勧告権を有する独立検査・監視機関を創設すべきであると考えております。
 加えて、こうした機関に対しては、行政執行機関に対する提訴権をも与えるべきだと考えます。例えば、食品安全委員会が関係行政機関を、人権擁護委員会が検察庁や都道府県警察などを被告として行政活動の違法是正を求める訴訟制度を創設すべきであると考えます。
 さらに、そうした独立検査・監視機関がその権限を適切に行使しない場合には、国民自身がその不作為の違法性を問う行政訴訟を提起できるということの改善も必要だと考えておりますが、一連の提案への大臣の見解を伺いたいと思います。
 本会議にお集まりの議員の皆様方、今回の改正案が、主権者たる国民が違法、不適正な行政行為を是正をしていくという本来の行政訴訟の目的から見てまだまだ不十分であり、積み残された課題が多々あるということを十分に御理解いただけたと思います。やはり行政訴訟の一方の当事者である行政が自らの不利益になるような抜本的改革案を取りまとめ、国会に提出する、そのこと自体にしょせん無理があるということがお分かりいただけたと思います。
 行政訴訟法のような正に憲法附属法については、与野党議員がきちっと議論をし、検討を積み上げていく場をこの国会に設け、そして国会議員自らが自らの手でこの国の統治機構の在り方を考え、そして決断をしていかなければならないということを改めて最後に申し上げて、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)

   〔国務大臣野沢太三君登壇、拍手〕

○国務大臣(野沢太三君)
 鈴木議員にお答えを申し上げます。
 まず、本改正案の提出に関して、統治機構の本質が戦前と全く変化していない、官僚主権が維持されているのではないかとのお尋ねがありました。
 今回の行政事件訴訟法の改正につきましては、総理を本部長とし、全閣僚をメンバーとする司法制度改革推進本部においてその案を作成したものでありますが、その際には、本部に設置された顧問会議や事務局に設置された検討会のメンバーとして有識者の方々に御協力をいただいたほか、国民の皆様から広く御意見、御提案をいただいたところであります。また、各政党においてもこの問題につきまして活発な御議論をいただいたところであります。
 本改正案につきましては、このような関係各位の御努力の成果を踏まえ、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から、総合的な改革を実現しようとするものでありまして、ひいては司法による行政のチェック機能の充実にも資するものであります。
 したがいまして、御指摘のような統治機構の本質が戦前と全く変化していないとか、官僚主権が維持されているというような御批判は当たらないものと考えております。
 次に、本改正による救済の拡大の可能性につきましてお尋ねがありました。
 本改正案におきましては、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から、救済方法を拡充することとし、新たに義務付けの訴え及び差止めの訴えを設けることとしております。また、行政庁に対して資料の提出を求めることにより、審理の充実、促進を図り、また出訴期間の延長などによって訴訟を利用しやすくするとともに、本案判決前における仮の救済の制度の整備を図ること等の改革をしております。このように総合的、多面的な改革を実現することにより、これまでより更に実効的な国民の権利利益の救済が可能になるものと考えております。
 次に、原告適格の拡大につきましてお尋ねがありました。
 本改正案におきましては、処分又は裁決の相手方以外の第三者について法律上の利益の有無を判断するに当たりましては、当該処分又は裁決の根拠法令の規定の文言のみによることなく、当該根拠法令の趣旨及び目的等を考慮すべき旨を規定することとしております。これによって個々の事案における原告適格の認められる範囲が適切に判断されることが確保され、原告適格が実質的に広く認められることになるものと考えております。
 他方で、法律上の利益という文言を利害関係などの他の文言に置き換えることにつきましては、このような文言に置き換えることによって、原告適格の認められる範囲が適切に判断されることが確保されるかどうかは極めて不明確であり、相当でないと考えます。
 具体的な事案における判断につきましては、裁判所が個別の事情に即して行うべきものでありますが、ただいま申し上げたような考慮事項を定めることによって、例えば処分の許可要件の規定が技術上の基準など一般的、抽象的に規定されている場合でありましても、根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、根拠法令の趣旨、目的や当該処分において考慮されるべき利益の内容、性質等が考慮されることになります。これによりまして原告適格が実質的に広く認められることになるものと考えております。
 次に、執行停止の要件につきましてお尋ねがありました。
 本改正案におきましては、執行停止の要件につきまして、回復の困難な損害の要件を重大な損害に改めた上で、裁判所がこの重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難な程度を考慮するとともに、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案すべきものとしています。
 具体的な事案における判断につきましては、裁判所において行うことではありますが、例えば金銭賠償の可能性も考えますと、損害の回復の困難の程度が必ずしも著しいとまでは認められない場合でありましても、具体的な処分の内容及び性質をも勘案した上で、損害の程度を勘案して重大な損害を生ずると認められるときには、執行停止を認めることができることになるものと考えております。
 次に、出訴期間を一律に六か月とする理由につきましてお尋ねがありました。
 行政事件について訴えを提起しようとする場合においては、訴訟要件や実体的な要件について検討を要する問題が多く、訴訟準備にも相当の期間を要することが少なくありません。本改正案におきましては、このような点を考慮して出訴期間を六か月に延長したものであります。
 出訴期間の定めにつきましては、従来より国民にとっての分かりやすさの観点などから、原則を行政事件訴訟法で定めてきたところでありまして、今回の改正に当たりましてもこの点を改める必要はないものと考えたものであります。
 次に、行政庁の資料の提出につきましてお尋ねがありました。
 本改正案におきましては、民事訴訟一般の釈明処分の特則を新たに設け、裁判所が行政庁に対し資料等の提出を求めることができるものとしております。この場合におきましては、一般の釈明処分の場合と同様に、提出に応ずべき義務の有無や資料の範囲は、釈明処分を受けた行政庁において法令に則して判断されることになります。したがいまして、第三者の営業秘密や個人のプライバシーにかかわる情報など資料の提出を拒む正当な理由があるときには、解釈上これを拒むことができるものと考えております。
 正当な理由なくこれを拒んだ場合における制裁的な措置につきましては設けられていませんが、裁判所の心証、すなわち証拠全体の評価において不利に働くこともあると考えられますので、実質的にはこのような面から実効的な運用がなされるものと考えております。
 次に、裁判の管轄につきましてお尋ねがありました。
 本改正案におきましては、現行法による管轄裁判所に加えて、被告適格を改正したことに伴い、被告国の所在地を管轄する東京地方裁判所のほか、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起することができることとしております。
 高等裁判所所在地を管轄する地方裁判所としました理由につきましては、行政訴訟における裁判所の専門性を確保しつつ、訴えを提起する原告の便宜が図られることとの調和を図ったものでありまして、それ以外の地方裁判所にまで管轄裁判所を拡大することは適当でないと考えたものであります。
 次に、訴訟費用の一律低額化につきましてお尋ねがありました。
 行政訴訟の訴え提起の手数料につきましては、一般の民事訴訟と同じように訴訟の目的の価額で決められておりまして、行政訴訟の目的も、基本的には民事訴訟と同様に個人の権利利益の救済にありますことから、民事訴訟と異なる取扱いをする根拠があるのか否か、訴訟利用者全体の負担の公平の観点も含め、慎重に検討する必要があると考えております。
 なお、今般の司法制度改革におきましては、行政訴訟を含む民事訴訟全体の訴え提起の手数料が引き下げられ、本年一月から実施されているところであります。
 次に、団体訴訟の導入につきましてお尋ねがありました。
 団体訴訟の導入につきましては、広く地域住民などに一般的に共通する集団的利益に基づいて、特定の団体が訴えを提起する制度を認める必要性等について慎重に検討する必要があると考えております。そして、その際には、各法分野ごとに、その法律の目的や、その法律が保護しようとしている権利、利益、当該処分等の特質等を考慮して十分な検討を行う必要があると考えております。
 次に、納税者訴訟制度の創設につきましてお尋ねがありました。
 いわゆる納税者訴訟のような国の公金支出の適法性を国民の訴えに基づいて裁判所が審査する新たな訴訟制度を設けることが適当かどうかにつきましては、司法権の本質と裁判所の役割、財政に関する国会の権限との関係等の三権分立にかかわる問題点や、会計検査院の憲法上の位置付けその他の憲法上の問題点等について、慎重に検討する必要があるものと考えております。
 次に、独立検査・監視機関の創設についてお尋ねがありました。
 行政活動についての検査・監視のための新たな機関を立法府に設けるべきかどうか、またその機関の権限、特に行政活動の違法是正を求める提訴権の付与の問題、あるいは国民がその権限の不行使に対する行政訴訟を提起することができるようにするかどうかなどの問題につきましては、会計検査や行政の評価、監視に関する制度の在り方、会計検査院の機能との関係その他の憲法上の問題点、司法権の本質と裁判所の役割等の三権分立にかかわる問題点などについて慎重に検討する必要があるものと考えております。(拍手)




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