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  法務委員会 質疑

2002年10月31日 


○鈴木 寛
 民主党・新緑風会の鈴木寛でございます。
 私は、先日、森山法務大臣からの臨時国会に当たっての所信を聞かせていただきました。その所信を聞かせていただく中で、本当に日本の国の社会不安というものが大変深刻な状況にあるなということをその所信の一つ一つの文章、お言葉から大変に痛感をいたしたわけでございます。
 今日は、そうしたまずは社会不安、いろいろな社会不安がございますが、その重要な問題に取り組んでおられます法務大臣並びに法務省に、所信に沿いまして少しお尋ねをさせていただきたいと思います。
 私がまず大変にびっくりをいたしましたのは、もちろん新聞等では承知をいたしておりましたが、矯正施設の充実を小泉総理から司法制度改革の実現と並んで指示を受けているというお話がございました。大臣の御所信でも正に、刑事司法の最後のとりでとも言える矯正施設において収容人員が急激に増加し、特に刑務所、拘置所において過剰収容の状態が続いて大変な影響があるというお話がございました。これは正に、日本の社会不安あるいは犯罪の状況というものも正に収容施設のところにまで影響が及ぶほどの事態になっているんだなということ、その深刻さを改めて痛感をいたしたわけでございますが、少しまず、これは極めて重要な問題でございまして、先日はお時間の関係もありましてこのような内容の御説明だったわけでございますが、この実態について少し詳しく御説明をいただければと思います。

○政府参考人(中井憲治君)
 お答えいたします。
 委員が御指摘されましたように、行刑施設の収容人員はここ数年非常に急激な増加を示しておりまして、収容の人員が収容定員を超えるいわゆる過剰収容の状況にございます。これは実に三十数年ぶりの事態でございます。
 今年の九月末の行刑施設全体の収容人員でございますけれども、五年前の平成九年九月末に比べますと約一万八千人増えまして、合計で約六万八千人となっております。収容率で申しますと、二七%増えまして一〇五%に達しております。
 中でも、受刑者等の、これは既決と申しますが、この既決の被収容者だけで見ますと、五年前に比べますと約一万五千人増えておりまして、総計で約五万六千人の、概数でございますけれども、ありますし、それから収容率で見ますと、二九%増えまして一一四%に達しているところでございます。我が国の最大の刑務所は府中刑務所でございますけれども、その収容定員が約二千六百人でございます。したがいまして、この五年間で府中刑務所が五つくらいの数の収容増があったということでございます。
 現在、行刑施設の本所施設、本所が七十四庁ございますけれども、このうちで収容率が一〇〇%を超える庁が六十二庁ございます。このうちの十四庁では収容率が一二〇%を超えるという状況に至っております。
 このような過剰収容の結果、行刑施設におきましては、被収容者の生活の中心の場所は、これはいわゆる居室と申しておりますけれども、居室のスペースが足りない。当然、刑の一環として作業をいたしますところの工場のスペースも不足しているということになりますし、いわゆる食料費でございますね、こういった被収容者の生活関連の経費を確保する必要に緊急に迫られているところであります。
 また、今申しましたように、収容人員が非常に増加しておりますために舎房あるいは工場等の生活空間というのが非常に狭くなってきておりまして、被収容者のストレス等も増大するなどしております。
 例えて一例を挙げますと、被収容者の懲罰の件数でございますけれども、平成十三年度で見ますと、五年前の平成八年に比べますと一・四倍に増えております。件数で申しますと約三万七千四百件という数字になっております。
 また、これは同時に定員上非常に厳しいところの職員の業務負担にも影響しておりまして、その負担が非常に増えておりますことから、例えば平成十三年度における保安職員の年休の取得日数というものを三年前の平成十年度に比べますと、二日減っております。四・六日という状況でございまして、週休の取得すらままならないといった極めて厳しい状況になっているところでございます。
 御説明を終わります。

○鈴木 寛
 過剰収容の状況、そしてそれがいろいろな点で弊害を生んでいるということはよく分かったわけでありますが、これは単に、足りませんので施設を増やす、予算を付けてという、そんな単純な話ではないと思います。どうしてそもそも収容人員が増えてしまったのかというところをやっぱりきちっと議論をして、その対応策と、そして万やむを得ない措置としての更生施設への施策の充実、こういうことに議論の手順としてはなろうかと思いますが、少し、急速にこの定員オーバー、過密状況になっているその状況といいますか、分析というか、そこを少しお聞かせをいただけますでしょうか。

○政府参考人(中井憲治君)
 この行刑施設の過剰収容になっておりますところの原因でございますけれども、端的に申しますと、行刑施設に入ってくる受刑者の人員がまず増えているということと、それからそれら入所してくる受刑者の平均刑期がいずれも長期化しているといったことが挙げられるのではないかというように考えております。
 平成十三年度の受刑者で行刑施設に入所いたしました人員を十年前と比べますと約一・四倍になっておりまして、三万六百人強でございます。また、有期刑の平均刑期を見ますと、十年前に比べて約四・六か月長い二十七か月となっております。
 これらは、昨今、委員御案内のとおり、非常に犯罪が増えておりますし、凶悪化している、さらに社会全体の動きを見ますと厳罰化を求める声も大きい、こういった諸傾向を反映しているのではないかと考えられるところでございます。

○鈴木 寛
 正に、今、局長からお話がありましたように、日本の要するに犯罪情勢の悪化、この本を何とか改善をしていかないとこの問題というのは解決をできないという観点から、大臣の所信にも、これは刑事局にお伺いをすべきことなんだと思いますが、大臣の所信の中でも、最近の国内の犯罪情勢を見ると、今も局長からお話がありましたが、まず受刑者が増えているということは刑法犯の発生あるいは認知件数も増えていると、それから刑の長期化ということで、正に殺人あるいは強盗といった凶悪重大事件が発生をしていると、こういうお話がございましたが、この日本の犯罪状況、犯罪の情勢についての現況について少し詳しく御説明をいただきたいと思います。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 お答えいたします。
 統計によりますと、平成七年以降、一般刑法犯の認知件数は増加を続けておりまして、平成十三年には前年比一二%の増、平成七年に比べますとその約一・五倍にも当たります二百七十三万件余りとなっておりまして、戦後最高を記録しております上、平成十四年上半期におきましても、百三十五万件余りと前年同期より更に四・九%増加しております。中でも、強盗を中心といたします凶悪犯の認知件数は、平成七年に比べまして平成十三年では約一・七倍にも当たります約一万二千件に上っております。
 また、内容について見ましても、これまでの社会常識では考えられなかった動機や態様による事件を含めまして、誘拐殺人、保険金目的殺人、被害者が多数に及ぶ殺人など凶悪重大事犯が後を絶たず、加えて、来日外国人等によります組織的犯罪も多発しているというふうに承知しております。
 他方、一般刑法犯の検挙件数は、平成十三年は五十四万件余りにとどまりまして、前年比では六%減少しておりまして、検挙率も、平成九年におきまして四〇%であったものが平成十三年におきましては一九・八%となり、戦後最低の数値を記録しております。平成十四年上半期におきましても二〇・一%にとどまっておりまして、強盗を中心とする凶悪犯の検挙率も、平成九年において八七・六%でありましたものが平成十三年におきましては六一・二%に低下しているものというふうに承知しております。

○鈴木 寛
 今、検挙率についても著しく低下していると。特に、凶悪犯罪の中でもいわゆる強盗について六〇%しか検挙をされていないという、非常に深刻なといいますか、驚愕すべき数字が今お示しをいただいたわけでございますけれども、本当に、私は東京でございますけれども、東京都内でも毎日のように大変に、先日は私たちの先輩議員でもあります石井紘基議員の事件もございましたけれども、本当に凶悪な事件が残念ながら日常茶飯という状況でございます。
 そういう中で、今お話がありました、特に強盗が六割しか捕まらないということは、本当に市民の皆様方は大変に不安な状況で日々お過ごしだと思います。この検挙率を上げていく、全体でも四割近く、要するに半分以上が捕まっていない、検挙されていないと、こういう状況なんでありますけれども、これは大変に法治国家として、あるいは市民の、市民生活の生命と安全を守る、正にこれはもう国家の中心的な核心的な任務だというふうに思いますけれども、この問題についてどのような具体的に検挙率を、著しく低下しておるというふうに大臣もおっしゃっておりますが、これを上げていくための具体的な取組というのは今どのように考えておられるのか、少し、これは大変に市民の皆さん、国民の皆さん関心を持っておられる話ですので詳細に御説明をいただければと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 大変に難しい問題でございますが、検挙率の低下につきましては、重要犯罪等の増加に伴いまして、新たに発生しました事件の早期検挙に重点を置かざるを得ないという結果、窃盗等により検挙した被疑者の余罪解明率が低下しているということ、不法滞在外国人等による組織的犯罪の増加などにより捜査が困難化しているということ、捜査を取り巻く環境の変化により聞き込み等の手法を活用した捜査が困難化していること等の事情が複合しているものであるというふうに承知しております。
 法務当局といたしましては、これは極めて憂慮すべき情勢であると考えておりまして、国民が安心して暮らせる安全な社会を維持するためには、刑事司法手続におきまして犯罪を摘発し、事案の真相を明らかにした上、刑罰法令を適正かつ迅速に適用して、適正な科刑を実現することが重要と考えておりますが、法務当局といたしましても、所要の法整備を更に進めるほか、検察の人的、物的な体制強化に努めるなど、社会の安全を確保するための全力を尽くしてまいりたいというふうに考えております。

○鈴木 寛
 この点は本当に極めて重要な話でありますので、大臣に少しきちっと、大臣も治安は極めて憂慮すべき状況にあるという現状分析をしておられるわけでありますから、これは明確に国民の皆様方に対して、この憂慮すべき事態をどのような決意を持って取り組まれるおつもりかを是非御答弁をいただきたいと思います。

○国務大臣(森山眞弓君)
 先生がいろいろと御指摘くださいましたようないろいろな問題がございまして、国民が安心して暮らせる社会というのを実現するということは大変に難しい、かつ重要な課題でございます。その責任を預かっております法務大臣といたしましては、全力を尽くして頑張らなければいけないと日々思っているわけでございますけれども、具体的には、刑事司法手続におきまして犯罪を摘発いたしまして、事案の真相を明らかにした上で刑罰法令を適正かつ迅速に適用して、適正な科刑を実現することというのが肝要であるというふうに考えております。
 また、法務省におきまして、国内における犯罪情勢の変化、来日外国人に係る犯罪等の深刻化、国内外における無差別・大量殺人テロの頻発、矯正施設の過剰収容、保護観察における処遇困難対象者の増加など、いろんな情勢を踏まえまして、各種法令等の整備及びその適正な適用を図るほか、法務省関係各機関について、今もお話が出ておりました人的・物的体制を充実し強化するということとともに、厳格な出入国審査の実施とか刑務所における収容状況の改善、あるいは保護観察の実効的実施、公安情報収集の充実など、多方面にわたっての努力を積み重ねていかなければいけないというふうに考えております。
 非常に難しいことではありますけれども、これが私どもの務めであるということでありまして、積極的に取り組んでまいりまして、社会の安全の確保に尽くしていきたいというふうに思っております。

○鈴木 寛
 この問題は、まず犯罪の発生件数を世の中全体として少なくするということでございますので、これは法務省のみならず、国会すべてが取り組んでいかなきゃいけない問題でありますが、しかし起こってしまった事案についてはやはりきちっと検挙率を上げていただいて、そして適正な法手続に基づいて刑の実施というか、それが矯正施設の問題にもつながるんだと思いますが、そうした日本の法治国家として今大変ないろいろな問題を抱えていると思いますので、その点是非、大臣のリーダーシップによって日本の治安を何とかしていただきたいということを強くお願いを申し上げたいと思います。
 社会不安あるいは犯罪の根っこにもなっていると思いますのは、やはり日本の現下の不況、経済状況の深刻化だということになります。この問題についてはむしろ経済担当閣僚にお話を聞くべき話でございますが、法務省の関係で申しますと、個人破産が非常に増加をしていると。これは、例えば日本の金融システムが個人保証を取るという、事業金融ではなくて担保金融になっておりまして、個人保証を何でもかんでも取っていくと、そういう中で事業の失敗が個人が負わなければいけないという中小企業の方々が非常に多いという日本の金融の問題点などがこの個人の自己破産件数にもつながっているんだというふうに思います。
 そうした中で、まずこの個人破産の増加ぶりの現状について少し御説明をいただきたいと思います。

○政府参考人(房村精一君)
 御指摘のように、個人破産を含む破産事件そのものが非常に増えております。
 平成八年には約六万件でありましたものが、五年後の昨年、平成十三年には十六万八千件になっております。さらに、今年は二十万件を超えることが予想されております。この破産事件の大半は個人破産、大体、毎年約九五%が個人破産でございます。昨年で申しますと、十六万八千件のうち十六万件が個人破産ということでございますので、委員御指摘のとおり非常に個人破産事件が増えております。
 このような個人破産事件の増加ということへの対応を法務省としてもしなければならないと考えておりまして、現在、法務省においては法制審議会で破産法の全面的な見直しを行っております。それで、破産手続全体について効率化、合理化を考えておりますが、その中で個人破産事件についてもより適切に処理できるような体制を組むべく検討を進めているところでございます。

○鈴木 寛
 正に、十六万件の個人破産というのは大変な状況だと思います。
 実は、私、七年ほど前にクレジットの多重債務者のカウンセリングの仕事を担当させていただきました。要するに、個人破産に至る前の段階でいかに、破産状況の手前のところでいかに救済をさせていただくかということを仕事としてやっていた時期がございますが、そのときに、当時の通産省、大蔵省ではなかなかもう手に負えない、最後はやはり法務省にお願いをしなければいけないと、そういう議論の経過もありまして、民事再生手続の中で個人再生手続というのがそうした議論の中で出てきていると思います。
 これは昨年の四月から施行されていると思いますが、そうしたいろいろな経過があって、かなりの期待を持って導入をされたこの個人再生手続でありますが、にもかかわらずなのか、これがあるからまだ何とか、もちろんその件数とリンクするわけじゃありませんが、要するに、破産に陥って、そしてその後、大変な深刻な事態がこの個人再生手続などによってどのように改善をされているのか。いわゆるこの制度、あるいは施策の一年たったところでの評価、あるいは問題点があるのかと、その点についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○政府参考人(房村精一君)
 御指摘のように、多重債務者の急増に対応するために平成十二年十一月に民事再生法を改正いたしまして個人再生手続を創設しまして、昨年の四月から施行されております。この制度によりまして、多重債務を負担するなど、経済的に破綻に瀕した個人の債務者が破産宣告を受けることなく経済的な再生を図る道が開かれたわけでございます。
 利用状況でございますが、昨年四月から一年間で全国で約八千五百件を超える件数の申立てがなされて、利用されております。さらに、最近の利用状況を見ますと年間一万件を超えるのではないかということでございますので、制度としてはまだ始まったばかりでございますので、この数は非常によく利用されていると言えるかと思っております。また、実績を伺っても、認可に至る率が非常に高率で、個人の再生に非常に貢献しているということは間違いなく言えると思っております。ただ、何分、破産事件そのものがこの再生手続によって減るというところまで行っておりませんが、本来であれば破産に行くべきものの相当数がこの個人再生手続によって救われているのではないかと思っております。
 そういう意味で、まだまだ当事者も慣れていない面もございますので、裁判所あるいは弁護士会も利用しやすくする工夫を様々しているところでございますが、法務省としても協力して適切な方策を更に考えていきたいと考えているところでございます。

○鈴木 寛
 これは、制度としては非常に法務省も御努力されて踏み切ったと思いますが、やはり十六万件に対して今の数字というのはまだまだ残念ながら少ないんだと思います。
 それで、いろんな事案を見てみますと、もちろん裁判所の関係の方あるいは弁護士の方というのはこの手続についてよく御了知をいただいていると思いますが、要するに、いわゆる多重債務状況にある個人の方々がそもそも自己破産というシステムがあるということも通常余り御存じないし、更に申し上げると、個人再生手続という、何といいますか、方法といいますか、自らの最終的には命を落とされる方も三万人ぐらい今いらっしゃるわけでありますが、その前段階でいろんな、何といいますか、救われる道があるということをもう少し事前の段階で知っていただくという方法がないものかなということを非常に思うわけでありますが、そして残念ながら、弁護士の方の数というのは、かつ弁護士に御相談に行くというのはなかなかそうした、企業のそうした債務問題であれば弁護士に相談に行くという道もあるのかもしれませんけれども、個人の方々がそうした弁護士の方々に日常に相談に行くという状況はなかなか想定をしづらいと。
 そういう意味で、もちろん弁護士あるいは日弁連に頑張っていただくということは当然なわけでありますが、それ以外にももう少し、PRといいますか、PRという言い方もあれかどうか分かりませんが、こういう方法があるんだよということについて周知をされることというのは非常に重要だと思いますが、この点については何かお考え、御対策はおありになるでしょうか。

○政府参考人(房村精一君)
 御指摘のように、せっかく整備した法律制度でございますので、できるだけ広く国民の方々に利用していただきたいと思っているところでございます。最も密接な関連を有しております弁護士会あるいは裁判所においてこの制度の利用に関して種々、PRに努めておられるところでございますが、法務省としても省としてできるだけのことをしたいと思っております。いろいろな機会に法務省関連での法律相談、無料法律相談等も行っておりますので、そういうような機会を利用するとか、様々な試みをこれからもできるだけ続けたいと思っております。

○鈴木 寛
 これはお願いでございますが、大臣、是非、本当に年間十六万、潜在的な個人の多重債務を抱えておられる方というのは百万人ぐらいいらっしゃる。そういう中で、是非いろいろな救済策が用意されているんだということについて法務省挙げて周知をしていただいて、そうした方々の精神的あるいは実質的な負担を取り除いていただくことに御尽力をいただきたいということをお願いを申し上げます。
 それでは質問を変えますが、これも大臣所信の中でお話がありました重要なテーマでございます、そして北朝鮮の問題でございますが、現在もクアラルンプールで国交正常化交渉が始まっているというふうに思います。
 それで、少し、若干気になることがございますので御質問をさせていただきますが、これは大臣所信の中で、北朝鮮による拉致事件は我が国の国民、生命と安全にかかわる重大問題である、その真相の解明と厳正な対処が必要だと、こう言っておられます。検察においてもきちっとやっていただくということ、これはこのとおり是非きちっとその個別事件の具体的な対応については検察でやっていただくことを私も強く希望するわけでございますけれども、法務省としても、拉致問題の解決に向けて、関連情報の収集を積極的に行い、関係諸機関との連携協力の下、事実解明に貢献するように努めてまいりますと、こういうお話でございましたが、少しこれは足らないんではないかなということで御質問をさせていただきますが、そもそも今回のように日本国内で日本国民が拉致をされて国外に拉致をされたと。これは、個別論については検察がきちっとおやりになるということですから、あえて御質問は申し上げません。しかし、一般的にこのような場合、もちろん事案をきちっと見てみないと、あとは個別、ケース・バイ・ケースだというお話なのかもしれませんが、一般論として今回の拉致のようなケースは刑法上どういう罪の成立に該当する可能性があるかということについての御説明をいただきたいと思います。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 お尋ねの拉致事件につきましてどのような罪に該当するのかといいますことは、委員が今御指摘になりましたように、具体的な事実関係に即して判断すべき事柄であるというふうに思います。
 そこで、あくまでも一般論として申し上げることにいたしますが、まず未成年者を略取し又は誘拐した場合、これは刑法第二百二十四条の未成年者略取及び誘拐の罪に当たります。一定の目的で人を略取、誘拐した場合、その目的に応じまして同法第二百二十五条の営利目的等略取及び誘拐の罪、あるいは第二百二十五条の二の身の代金目的略取の罪、第二百二十六条の国外移送目的略取等の罪等に該当すると思われます。
 また、身体に直接的な拘束を加えて行動の自由を奪った場合、同法第二百二十条の逮捕罪、一定の区域から出ることを不可能又は著しく困難にして行動の自由を奪った場合には同条の監禁罪の成立がそれぞれ考えられるというふうに思っております。

○鈴木 寛
 これも、正に日本の治安が極めて憂慮される状況にあるという観点から私は御質問をさせていただいておるわけですが、今のような罪、刑を犯した実行犯が国外に逃亡をしているという蓋然性が非常に高いわけですね、今回は北朝鮮だと思いますが。
 通常、国交のある国に今のような刑を犯した犯人が逃亡した場合には、これはどういうふうな手続によって犯人がきちっと捜査をされ、そして犯人が捕まえられて、そして日本にまたその犯人の引渡しと、こういうことになる。要するに、市民の皆さん、国民の皆さんは、何か刑法に当たるような重大な犯罪行為があったときに、きちっとその犯人が、それは国内にいようが国外にいようがきちっと捜査をされて、そしてそれがちゃんときちっと捕まえられて、そしてそれが日本の法律の中できちっと裁かれているということが機能していると思うから安心して市民生活、国民生活を送られるわけでありますが、しかし残念ながら、今回の事案というのはそうした極めて基本的なことがそうでなかったということでこれだけ多くの国民の皆様方に不安を巻き起こしているんだというふうに思います。しかも、それが隣国であります北朝鮮に、しかもその状況が二十数年間放置をされていたということに驚愕をしているわけでありますが。
 時間がなくなりましたので、国交が正常な国においては、私の理解では、きちっと国際捜査共助の要請が行われて、そして相手国によって共助の体制が取られて、そして犯人捜査、そして犯人の逮捕と。そして、引渡しのルールがあって、そして犯人が日本に引き渡されて、そして国内法で裁くと、こういうことになるんだと思いますが、もしもそれが違うんであれば補足をいただきたいわけでありますが、しかし国交のない北朝鮮の場合はこのメカニズムといいますかシステムがワークしないわけですね。
 私は、まず何が足らないかと申し上げたかといいますと、正にそうした、これからもそういった犯人が北朝鮮に逃げていくということは大いに想定をされる。もちろん、過去の問題の清算ということもありますが、システムとして、システムとして今のようなきちっとしたシステムが回っていない、あるいは今どこに、通常の国交のある国に逃げた場合と北朝鮮に逃げた場合と制度上の欠落があって、そしてそのことについてどのように対応するのかということについての議論の提起というのが当然、国交正常化交渉の中においてなされるべきだというふうに思っています。例えば、北朝鮮は国際刑事警察機構、ICPOですね、これにも加入をしていないわけでありますから、そうした場合に国際捜査共助というものがどのように行われるのか、ここも全くよく見えません。
 そういった問題について、北朝鮮の場合はどのように考えたらいいのか、あるいは今現在、法務省が、今言った正に司法刑事システムというもの、特に両国をまたがる刑事犯が行われた場合のシステムというものについてどこが欠落し、これをどうしていったらいいのかというふうに分析をされているのか、お教えをいただきたいと思います。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 まず、前提といたしまして、刑事訴訟法に基づきまして捜査権限を有する我が国の捜査機関は、外国に対しまして証拠の収集への協力や犯罪人の引渡しを求めることができるというふうに解されておりまして、このことは相手国と国交があろうがなかろうが同じ、基本的なものは同じであろうというふうに思っております。
 ただ、こうした捜査共助の要請や犯罪人の引渡し請求は、我が国と国交がある国の場合には外交ルートを通じて行っておりまして、相手国は我が国等の間で条約がある場合はそれに基づき、条約がない場合は、国際法上の義務はないものの、国際令状に基づいて我が国の要請にかかわる捜査共助や犯罪人の引渡しを実施しているのが通常でございます。
 しかしながら、国交がないというところへの要請、これは、要請することは基本的に我々が適当であると思えば、考えればやればいいことなんでありますが、相手はこれに応じなければならない国際法の義務がないところ、国交がないということそのことからこれに伴う問題が出てくるんだというふうに考えております。つまり、国交がありましたら通常の公式な外交ルートがございますから、例えば相互主義とかあるいは双罰主義とか、あるいは自国民の引渡しはしないという考え方とかいろいろな国際的には考え方がございますので、そのどこにネックがあるのかというふうなことを突き詰めて議論することができるわけでございまして、国交がないところとなかなか思うようにできないというのが根本的な違いだろうというふうに思っております。

○鈴木 寛
 大臣にお尋ねを申したいわけでございますが、私は、拉致事件の解決といった場合には、今のような法的なことも含めてきちっと、日本のすべての国民の皆様方が安心して暮らしていけると、しかもこれは隣国でありますから、そしてこれだけの事案がいろいろ発生しているわけでございますから、そうしたことも含めてきちっと正常化のプロセスの中で確認をしながら、あるいは問題提起をきちっとしながら当たっていただくということが極めて重要であるというふうに思っております。
 そういう意味で、ややこの大臣所信の、言葉じりをとらえるわけではありませんが、事実解明の貢献、これはもとよりでございますが、そうした、今後、拉致事件が絶対発生をしない、あるいはそうした場合にもきちっと法の枠組みがシステマチックに動くんだということまでも確保していただくということが極めて重要だというふうに思いますので、そのことを法務大臣から是非、外務大臣あるいは小泉総理大臣にきちっと問題提起をしていただいて、現下の交渉を的確な方向にリードしていただきたいというふうに思いますが、その点についての大臣のお考え、御決意をお伺いをしたいと思います。

○国務大臣(森山眞弓君)
 おっしゃるとおり、この北朝鮮による日本人の拉致事件というのは大変重大な問題でございますし、特に最近いろんな事態の発展がございましたので、国民の大変大きな関心を呼んでいる問題だと思います。
 残念ながら、まだ国交が正常化されておりませんので、いろいろな面で、今、刑事局長が申し上げましたようなことも含め問題が多いとは思いますけれども、それらの問題も含めて一つ一つ話し合い、そして解決をしていかなければいけない。それが国交正常化の重要な部分になろうと思います。
 検察におきましては、警察などの関係機関と緊密に連絡いたしまして、刑事事件にかかわるものにつきましては、法と証拠に基づいて適切に対処するということになりますが、その前提として、この大きな国交正常化の交渉の中でそのことも十分留意しながら努力していただきたいと思いますし、そのように進言したいと思っております。

○鈴木 寛
 是非きちっとその点はお願いをしたいと思いますが、これは恐らく、北朝鮮はだから国交を早くと、こういうわけでございますが、むしろ拉致事件の解決というのは、正にこうした具体的な捜査共助とかあるいは犯人引渡しとか、そうしたフレームワークがやっぱりできることも拉致事件の重要な核心だということでありますので、これは非常に難しい交渉になると思いますが、そこは是非折れることなく頑張っていただきたいということを強くお願いを申し上げまして、私の質問を終わらさせていただきます。
 どうもありがとうございました。


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