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 法務委員会 質疑 〜民事訴訟法改正案などについて〜

2003年07月08日 


○鈴木 寛
 民主党・新緑風会の鈴木寛でございます。私は、少し趣向を変えまして、民事訴訟法の方から御議論をさせていただきたいというふうに思っております。
 今回の民事訴訟法の改正案でございますが、平成八年に大きな改正がなされまして、それに引き続いて今回の改正案が提出されたというふうに理解をいたしております。
 今回の改正案の特徴の一つといたしまして、このいわゆる知的財産関係の訴訟についての改正というものがその重要な改正の内容の一つかというふうに理解をいたしているわけでございますが、午前中の参考人の御質疑の中でも多少御議論になりましたが、今回、特許権等に関する訴えの管轄についての変更といいますか改正が行われているわけでございます。その点について、もう一度、今回の民訴法改正の知的財産関係の改正の内容とその理由について少し詳細にお教えをいただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

○政府参考人(房村精一君)
 御指摘の特許権等のいわゆる知的財産権でございますが、これは今社会の中で非常に重要性が増しております。企業活動にとっても、特許権等をめぐる紛争、これを迅速かつ的確に解決するということが非常に重要性を増してきている、そういうことから、今回、民事訴訟法の改正に当たりまして、特許権等についての特別の扱いをするということにいたしたわけでございます。
 内容といたしましては、まず特許権あるいは実用新案権をめぐる訴訟につきまして、専門的な処理体制の整っております東京地裁及び大阪地裁に専属管轄化するということが第一点でございます。
 この理由といたしましては、特許権あるいは実用新案権というのは非常に技術的な専門性の高い分野でございます。これをめぐる紛争を的確に解決するためには、どうしても裁判所としてもそういったことに詳しい裁判官あるいは技術的な知識を持っている調査官を配置した専門部で処理をする必要があるだろうと。現在のところ、そういう専門部の体制が整っておりますのは、地裁の中ではやはり東京地裁の特許部、それから大阪地裁の特許部というところが最も充実した体制が整えられておりますので、やはりその特許をめぐる紛争についてはそういった充実した審理のできるところで迅速的確に解決を図るということが全体的な利益につながるだろうと、こういうことから専属管轄化をいたしたわけでございます。

○鈴木 寛
 私も、この知的財産、とりわけ特許などに関する訴訟が、非常に専門家も多くてそしてそういう処理体制も整っている大阪ないし東京に集約をされていくという方向性については、私はいいことだというふうには思っているんですけれども、私が是非少し議論をさせていただきたいと思っておりますのが、そのことが、専属管轄になるというところがどう接合していくのかというところについて御議論をさせていただきたいと思っているんです。
 それで、私の理解では、平成八年の改正の民事訴訟法の第六条で、正に大阪と東京に競合管轄ができるようなことになったことによって、いわゆる特許権についての案件の件数というのは八割から九割が正に集中して取り扱われるようになって、そしてそこに集中的に、非常にその知見と洞察を有した方々及び、もちろん調査官の方も含めて、そうした体制で行われている、これ非常に平成八年改正でいい方向に一歩進んだというふうに理解をしているわけであります。
 それで、加えまして、私がもう一つこの議論の中で是非重要だと思っておりますのでそのことを指摘させていただきたいのは、知的財産の訴訟といいますか、知的財産関係に関する事件といいますのは必ずしも特許権をめぐるものだけではない。もちろん、今回の法律でも特許実用新案、それから回路配置利用権、それからプログラム著作権ということを特許権等ということで集約をしていただいているわけでありますけれども、実は、この特許権等のみならず、これは六条の二の方できちっと理解をしていただいてそういうふうに書いていただいているので問題意識はそんなに変わっていないと思いますが、正にその六条の二の方で提起をしていただいている意匠権とか商標とか、あるいはプログラム以外の著作権とか、それから私は、その知的財産訴訟といった場合には、そういう物権的な構成による法律関係の処理に加えて、やはり債権的構成ということも広くとらえた、いわゆる広義の意味の知的財産というふうに一括してとらえることが私は望ましいというふうに思っておりまして、そういう意味で六条の二が正に平成八年の特許権と同じように競合管轄化するという手当てをされたということは非常にいいことだというふうに評価をしているわけでありますが、六条の本体の方ですね、なぜあえて競合管轄ではなくて更にもう一歩進んで専属管轄にしたのかなというところが私の疑問点でございまして、その点について更にお答えをいただければと思います。

○政府参考人(房村精一君)
 御指摘のように、現行民事訴訟法におきましては、特許権等の訴訟につきまして競合管轄を認めております。そして、実際の数としても東京、大阪に大体八五%近くの事件が集中しております。
 ただ、残る一五%についてはそれ以外のところで裁判をしているわけでございますが、これは、特許裁判というのは非常に特殊性が高くて、やはりそういう特許に経験のない裁判官がこれを担当する、そして身近に調査官もいないということになりますと負担が非常に重い、かつ時間も掛かってしまう。そして、これはもちろん適正な結論を得るために非常に努力をされるとは思いますが、やはりなかなか難しい問題がある。
 これは実際に特許事件に関与してみますと非常によく分かる。実は私自身も東京地裁の特許部に何年かおりましたので、その特許事件の難しさというのは身を持って味わったわけでございますが、これはなかなかこういう専門的体制が整ってないところで的確にしかも迅速に処理しようと思うと非常に難しいということでございます。やはり国全体としてこういう特許に関する紛争を適正迅速に解決するということが求められている時代だろうと思います。
 そういう意味で、多少地方の方に負担になる可能性はあるわけでございますが、やはり国の方針として特許裁判全体をより適正迅速に行うというためには、専門部の体制の整っているところに事件を集中するということが必要だろうという具合に考えたわけでございます。
 ただ、もちろん特許事件といってもそれほど専門性の高くないものもございますし、また、東京、大阪に集められることによって非常に事件が遅れたり、あるいは当事者に損害が生ずるという場合もございますので、そういう場合には移送ができるようにそういう移送の規定も整備をいたしまして、当事者に過度な負担を掛けないようにと、こういう配慮はいたしましたが、先ほどのように、やはり現代社会における特許等の重要性にかんがみますと、国の方針としてやはりそういう適正迅速な処理体制を整えるということが必要ではないか、こう考えているわけでございます。

○鈴木 寛
 地方の、何といいますか、不便というものについては移送とかあるいはテレビ会議というもので十分御手当てをいただくということでございますので、是非そこは遺漏なきようにやっていただきたいんですが、私のもう一つの関心点は、いわゆる具体的な事件をかんがみますときに、例えばプログラム特許でいくのかあるいはプログラム著作権でいくのか、はたまた不正競争防止法でいくのか。これ合わせ技でいろいろなアプローチを考えながら事件を解決していくというのが極めて、何といいますか、合理的といいますか、より権利の実現といいますか、当事者の納得のいく知的財産事件の解決という観点から資すると思うんですが、六条と六条の二でこうやって書き分けてしまいますと、いわゆる不正競争防止法といわゆる特許権型のものを一括してといいますか、うまく連携して取り扱うというところが大丈夫かなと、そういう分断されてしまうことについて少し懸念を持っているわけでありますが、その点についていかがでしょうか。

○政府参考人(房村精一君)
 実質的に同一の紛争について特許権構成でいくかあるいは不正競争でいくかというような構成の違いということかと思いますが、それを例えば一つの訴えで幾つかの請求をするというそういう場合には、併合請求ということで、例えば特許がその中に入っていれば特許権を管轄する東京あるいは大阪にその他の請求についても併せて提起することができますので、それを使えば、御指摘のような場合には目指している裁判所において一括して審理を受けられるということになるわけでございます。

○鈴木 寛
 済みません。ちょっと細かい話で申し訳ないんですけれども、その場合は、例えば今回想定している東京地裁なり高裁のいわゆる専門部のところに事件が取り扱われて、加えて併合請求をすると、こういう実務処理になるんでしょうか。

○政府参考人(房村精一君)
 そういう場合には、特許で例えば東京、大阪に持っていきたいということであれば、特許権を理由とする請求と併せて、例えば不正競争防止法を予備的に付けるとか、そういう形になると思いますので、その特許権が入っていればその管轄でいき、かつ配てんとしてもそこの部に行くということになろうかと思います。

○鈴木 寛
 よく分かりました。
 それでは次に、今回の民訴法の改正の中で、これもまず知的財産の事件に関してそうした充実した体制が取れるということで、まず管轄の問題を整理をしたといいますか、改善をしたということでございましたが、加えまして、今回の改正の中で専門委員制度というのが新設をされております。これを最大限活用するということは正に知的財産関係訴訟をより円滑に進めていくという観点では非常に有意義だろうというふうに思っております。
 具体的に、この専門委員制度というのは、特に技術裁判官とかいうような議論も出ているようでございますが、それを裁判官と呼ぶかどうかは別として、要するに技術の専門家あるいは法律の専門家、あるいはその双方の結合についてよく分かっている方、そういう方々がチームとしてより的確な裁判を進めていくという観点、非常に重要だと思っておりますが、この専門委員、どういう方々が、登録をされて、そして個別に任命をされていくということになりますが、プールをするときのイメージとしてどんな方々が想定をされていて、具体的に、そしてその専門委員、特に知財関係の専門委員というのが実質的にきちっと確保されるのかどうかという点について御答弁をいただければと思います。

○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
 それでは、知的財産権訴訟に関する専門委員の今準備している運用の構想について御説明をしたいと思います。
 知的財産権訴訟は、専門的技術に関する知識の補充が最も必要な分野の一つだという認識でおりますので、ほかの分野に先駆けまして専門委員の任命の準備的な作業を進めておるところでございます。
 今回の民事訴訟法の改正が実現しました場合には、現在の構想では、この施行と同時に東京高裁に百人程度の規模で専門委員を任命するということを目指して準備作業を進めているところでございます。
 なぜ百人程度という大量の専門委員を一度に任命するのかといいますと、最近の先端技術は分野が細分化されてきておりまして、十人、二十人という専門委員を任命しても、事件に応じた適切な人選が難しいということになりますので、百人という規模の人材をあらかじめ確保するのが適当であるというように考えておるところでございます。
 専門技術の分野といたしましては、例えばバイオ、ヒトゲノムなどの最先端の分野も対象でございますが、それにとどまらず、機械、化学、電気というような伝統的な分野におきましても、この分野も先端技術が細分化しておりますので、相当数の技術者を専門委員として任命をするということを検討しておるところでございます。
 このように準備しておきますと、先端分野の技術に関する知的財産権訴訟が提起された場合に、直ちにあらかじめ用意されたリストの中から専門委員を選任することが可能になるというように考えておるところでございます。

○鈴木 寛
 その中で具体的にどういう方が任命をされるのかというイメージをお聞かせいただきたいわけでありますが、恐らく大学の研究者とか弁理士さんとかということになろうかと思いますが、その点について。

○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
 御指摘のとおりでございまして、大学での研究者あるいは政府、民間の研究機関における研究者、それから専門的な業務に携わっておられる弁理士の方々、そういうような方々について広く人材を求めようと考えております。

○鈴木 寛
 ありがとうございます。
 それで、今日折しも、私、是非、知的財産関係訴訟というものがより充実されるということが大変に望ましいという観点で今日は御質問させていただいているわけでありますが、知財本部がこの知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画というのを今日のこの後ですかね、おやりになって、計画が恐らく承認をされるんだと思いますが、その案を私いただきましていろいろ勉強をさせていただいております。
 この案を読みますと、正に知的財産立国を作らなければいけない、あるいは知的創造サイクルというものを活性化していかなければいけないと。その中で、この計画の表題にもございますが、創造と保護と活用と、この三つが重要だという趣旨におきましては、大変に重要だし、そのとおりだというふうに思っているわけでありますが、少しちょっと整理をさせていただきたいんですが、司法制度改革推進本部でもこの知的財産訴訟の検討をされていらっしゃるというふうに聞いておりまして、この知財本部が今日お出しになる計画と、それから今、司法制度改革推進本部も知的財産訴訟の検討を行っておられる。この関係と、恐らく司法制度改革推進本部の検討会はまだ続行中だというふうに思いますので、これがどういうスケジュールで御審議が、御検討が進められているのかということについて、司法制度改革推進本部の方と知財本部と両方からお答えをいただければと思います。

○政府参考人(山崎潮君)
 ただいまの御指摘の点につきまして、私ども、昨年十月に知的財産訴訟検討会、十一番目の検討会を設けまして検討を進めております。
 これは、テーマは知的財産関係の推進本部ができる前の準備的な段階でいろいろ御議論があったもの、これが司法制度あるいは裁判手続に関連があるということから、私どもの方で検討を行うということで始めさせていただいたという経緯でございます。
 その後、知的財産戦略本部ができまして、今、様々な点について御議論がされておりますし、また司法制度に関係する新たな問題も提起がされているという状況でございます。私どもも、いろいろ御議論があったもので司法制度に関するものは私どもの検討会でも行うということで、言わば政府の中に二つ本部がございまして、双方が連携してやっていくということでございます。ただ、具体的に法案をどうするかという問題になれば、これは私どもが今、本部で検討しておりますし、手続法の関係は、特許法とかそれのみならず、場合によってはその発想というのは民事訴訟法とか、そのすべてに影響する可能性もあるわけでございますので、その関係は具体的には私どもの方でやらせていただくということを考えているところでございます。
 今、私ども順次、検討を進めておりますけれども、一応の大ざっぱな第一ラウンドの議論を終わりまして、今後更に細部を詰めまして、可能であるものは来年の通常国会には成案として御承認を得たいという、こういう予定で今進めているということでございます。

○政府参考人(久貝卓君)
 知財本部の検討状況でございますけれども、本日の夕刻の第五回の会合におきまして、今、委員御指摘の計画が決定されます。
 その中には司法関係のものも相当数ございます。これを受けまして、関係省庁においてこれを実施すると。その中には司法、今、事務局長の方からもお話ありました、司法本部の方での更なるこの計画を受けた検討というのも進められるということでございます。それから、知財本部の方におきましても、もし今日、御了解いただければ、知財の保護を進めるということで専門調査会を開くということで、こちらの方でも司法関係も含めて更に検討するという方向で進むものと思われます。
 いずれにいたしましても、司法本部と知財本部で連携を取りながら進めていきたいということでございます。

○鈴木 寛
 司法本部にお尋ねをさせていただきたいと思うんですが、知的財産訴訟検討会と、こういうふうに名前を言っておりますが、この知的財産訴訟というのはどういう範囲を含むと理解をしていたらいいんでしょうかというのが私の質問でございます。
 更に申し上げますと、今日の質問の冒頭に申し上げましたけれども、知的財産訴訟というのは非常に広くとらえて総合的に考えていくべきではないかというのが私の考え方でございますので、今日、民事訴訟法の六条あるいは六条の二の御議論を冒頭させていただきましたけれども、不正競争防止法なども含む、場合によれば種苗法とか意匠法とか、そういうことも、あるいは更にその周辺も含んだ問題をこの知的財産訴訟検討会の検討事項というふうに考えていいのかどうかという点についてお答えをいただければと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(山崎潮君)
 基本的には特許を中心にするものを考えておるわけでございますが、最終的なその外縁については、まずどういうものをやるということを決めて、その上でそれがどこの範囲に必要であるかという議論をしてまいりたいというふうに考えております。中心的なものをまず議論をするということでございます。
 ただ、一般的に言われます特許権、実用新案権、意匠、商標でございますか、それから著作権、それと不正競争防止法とか、この辺のところは通常は含み得るということで議論を進めております。ただ、その中で、それぞれの権利に応じてどのような手続を構築していくか、これはまた別問題だと、こういうふうに理解をしております。

○鈴木 寛
 ありがとうございます。
 それでは、本日の夕刻に決定されるであろう知財の創造、保護、活用に関する推進計画について少し掘り下げさせていただきたいと思っておりますが、この報告書といいますか、この計画案、実は一番計画の最後に非常に重要なことが書いてあります。
 これは、計画を読ませていただきまして、漏らしてはいけない論点についてはきちっと含まれているなということだと思うんですが、そのことをきちっとやっぱり今日の審議も通じて確認をもう少しやっていかなきゃいけないなという意味で私は今日御質問させていただいておりますが、この計画の一番最後のところに、「知的財産法は情報を対象としており、所有権法とは異なった情報独自の法体系が必要となりつつある。」という、こういう一文があるんですね。この一文は極めて重要な一文でありますし、正に日本の知的財産立国というものを考えていく上で、あるいは知的立国というものを考えていく上で、これは正に革新的な一文だというふうに思っておりますので、あえて私は取り上げさせていただきたいと思っておるのでございますが。
 私も、実は情報あるいは情報の価値というものを少し勉強をしてきた者からいたしますと、正に情報独自の価値とか情報独自の法体系というのは本当に難しいわけであります。通常の物でありましたならば、正に物の希少性というものの関数として物の価値というものは決まっていくわけでありますが、しかし情報の場合は、したがいまして、今から百年ほど前に工業所有権概念が導入されたときは、正にその無体財産なるものに、ある意味で法的な枠組みとしてあえて排他的処分性を有する所有権というものを設定をして、そしていわゆる有体物と同様の取扱いを法的にできるようにしようと。当時としては非常に画期的なといいますか、そういう知恵が一番いい知恵だったんだろうというふうに思います。
 しかし、正に時代は二十一世紀になりまして、いわゆる情報財とそれからいわゆる物的な有体財というものが、経済社会の中で場合によれば情報財の方がより価値が大きくなる、正にそれは情報社会というのはそういうことだろうというふうに思いますが、そうなったときに、結局有体財についての様々な法的ルールをそのまま借りてきたということでは、なかなかいろんなところで難しくなってきたということがこの一文に非常に象徴的に反映をされているんだというふうに思います。
 更に申し上げますと、この報告書の中でも、計画の中でも、いわゆる知財の価値付けというものについてこれからいろいろな手法を確立していかなきゃいけない、これも大変な問題でありまして、正に経済学、大体、大学の一年生とか二年生になりますと、価格というのは限界費用に設定したときに利潤が最大化するということを正に経済学のイロハのロぐらいで教わるわけでありますが、この情報社会、デジタル社会の本質というのは何かといいますと、いわゆる限界費用がゼロだということでありますから、そうしますと価格というのはゼロになってしまうというところで、情報財の値付けという問題が非常に難しくなってくるわけでありますね。そういうふうな極めて次なる社会の根っこにもなるようなことを規定をしていかなければいけない。そのことが「情報独自の法体系が必要となりつつある。」と、こういうふうに表現されているんだろうと思います。
 この重要性について明確にここに論じていただいているということは、私は大変に重要なことだし、大変にいいことだというふうに思っております。
 かつ、では、情報独自の法体系とは何かと問うたときに、いや、ここはまだなかなか明確なお答えがいけないということも私も十分承知をしておりますので、今日はそういう非常に、正に二十一世紀の根幹を決める、そういう問題がこの議論の中に内包されているということを、この国会の各委員、そして今日お集まりの政府の関係の方とも共有をするということで私は結構でありますが。
 しかし、申し上げたいことは、この後に、表題にもなっております、知的財産権、産業財産権への用語を統一するという記述がございまして、そして知的所有権という言葉があったのを知的財産権というふうにちゃんと全部書き換える、それから今までの工業所有権に替えて産業財産権という言葉に換えましょうと、用語統一をしましょうと、こういうことが出ているわけであります。もちろん所有権という言葉を財産権に換えるという、その裏の意味がいわゆる従来の所有権的構成を情報というものに当てはめることについてやっぱりいろいろ無理がある、あるいはもっと言えば、もっとポジティブにいわゆる情報に伴う財産権の構成というものについてきちっと意識していこうという姿勢については評価をいたしますが、これ法律の用語であります。しかも、権という新しい概念を広めていこうということでありますので、是非この知的所有権、知的財産権、工業所有権、産業財産権、この用語についてこの計画を策定をされました責任者であります知財本部から、今、有権解釈とは言いませんが、用語の御説明をいただければ有り難いと思いますが、よろしくお願いいたします。

○政府参考人(久貝卓君)
 昨年十一月に成立いたしました知的財産基本法では、知的財産権を「特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利」と定義しております。他方、今御指摘の知的所有権という言葉につきましては、これまで条約あるいは国際協定の訳文ということで用いられるといった経緯もございまして、国内では知的財産権及び知的所有権という言葉が、用語が必ずしも統一されておりませんでした。
 で、御指摘のように、情報を対象とした知的財産法というのは物を対象とした所有権法とは異なる側面を有するということで、昨年七月に決定されました知的財産戦略大綱におきましても、知的所有権という言葉を可能な限り知的財産権に統一するということがうたわれております。また、御指摘の今回決定、予定されております推進計画におきましても同様の提案が盛り込まれておるということでございまして、私ども事務局としては、この計画案が決定されましたら、知的所有権という言葉を知的財産権という言葉に統一するよう関係省庁に働き掛けてまいるというふうに考えてございます。
 また、併せて御指摘がございました工業所有権という言葉ですけれども、これも従来、特許、実用新案、意匠、商標というものを指すものということでございましたけれども、知財権の一部でございますこれらの権利についても、物を対象とした所有権法とは異なると。加えまして、農業、鉱業、商業と、こういった工業以外の産業に関する知的財産も対象となるということで、これも昨年の大綱以来、工業所有権という言葉に替えて産業財産権という用語を使用することということが決定されております。
 したがいまして、これにつきましても、この今回の推進計画に、決定されましたら、それに即して工業所有権を産業財産権に統一するという方向で関係省庁に働き掛けてまいりたいと考えております。

○鈴木 寛
 この定義というのは、これから恐らく不断にいろいろな、学会も含めて関係者の御努力でより精緻なものを作っていく途上、それが正に始まるんだろうというふうに思いますので、そういう意味で、引き続きこの点についての問題関心をきちっと持っていただいて、より国民の皆様方に的確な理解に努めていただきますことをお願いを申し上げたいと思います。
 それで、冒頭、私がこのことからお話をしておりますのは、今回の知的財産本部あるいは戦略会議の御議論、これ計画をきちっと読みますとちゃんと書いてあるんですね、私がこう言わんとすることは。
 例えば、しかしなかなか報道だけ見ているとそういうふうにまあ映らないものですから、あえて国会でこういうふうな問題提起をさせていただいているんですが、いわゆる例えば一九七〇年とか一九八〇年代のアメリカのプロパテント政策をただ単に日本に二十年後れで持ってくるということをやってはいけないんだと思うんです、私は。
 今、少し問題提起をさせていただきましたいわゆる有体財と情報財と、この情報財をどういうふうに取り扱っていくのかという問題は、これはもちろん日本も直面している課題でありますと同時に、アメリカもヨーロッパも世界じゅうが全部が直面している課題でございます。
 私は、もちろん知的創造活動というものが最大限尊重されるということについては、これは私は最も恐らく推進をしてきた者の一人だというふうに自負をしておりますし、そして、そうした創作意欲がどんどんかき立てられて、そして創作をした人たちがきちっと社会的にも経済的にも報われる社会を構築するべきだと。この理念、趣旨、哲学においては私はどんどんやっていただきたいと思いますし、私も世の中にそういう意識喚起を努めていく一人として頑張っていきたいという思いは変わらないわけでありますが、私が問題としたいのは、いわゆる、いわゆる八〇年代のプロパテントということを言ったときに、何でもかんでもがちがちの所有権的構成にして、そしていわゆる物権設定をして、排他的処分性を与えて、そしてそれをがちがちに守りながら、いわゆる何といいますか、創作者のためのではなくてローヤーのためのプロパテント政策が日本に導入されたならば、これは私は将来に大変に禍根を残すというようなことを思います。という質問をしようと思って、よく読んでいたら、計画の中でも単に米国の制度をそのまま導入すればよいということを意味するものではないと書いてあるので、ちょっと舌鋒が弱くなってしまうわけでありますが。
 だから、そういう意味で本当にこの創作意欲をきちっと駆り立てていく、そしていろいろな人たちのエネルギーが更なる知的活動に向いていく、その一つの社会システムとして、私はその創作物に対して従来のようにこの物権的な構成を与えていくということを、私はそれは一つの引き続き重要な柱の一つだと思います。
 しかし、それだけではなくて、やはりプラスアルファ、様々な法的な枠組みを設計をしていくという、やはりこの創意工夫というものをやっていくというのが、恐らく今日この二十世紀から二十一世紀、工業社会から情報社会の橋渡しを担っていく我々の非常に重要な使命だと。そのときに、今回行われている司法改革あるいは知的財産戦略というものが、そうした新しいフロンティアを作るときに足かせにならないように、足かせにならないようにするということは相当注意をしておかなければいけないんではないかと。携わっている当事者がそのことを十二分に御意識をされているということは、計画を詳細に読めば分かるわけでありますけれども、しかしそのことをより広く、単にプロパテントをそのまま入れてくるわけではないよということについては是非何度でも強調をさせていただきたいなというふうに思っているということでございます。
 そして、そういう中で私が知的財産訴訟関係の件で御議論をさせていただきたいのは、知的財産高等裁判所構想についてでございます。計画の中で、知的財産高等裁判所創設構想というものがうたわれております。
 私は、冒頭申し上げましたように、知的財産関係訴訟についてより充実した体制で、あるいはそうした人材がいい体制を作って、そしてそこにいろんな知見が集積をされて、で、しかもある意味では特に知的財産分野における司法の立法機能というのは大変に特に重要だと思っております。この知的財産のこの枠組みの中では。
 なぜならば、今のような正に二十一世紀型の情報独自の法体系というものを、もちろんその立法府が条文という形で様々な関係諸法令を改正をし、あるいは新法を作って打ち出していくという努力ももちろん必要でありましょうが、しかし具体的な事件を解決する中で、訴訟を解決する中で正に判例、そしてそこににじみ出すいろいろなリーガルエンジニアリングといいますか、法的な創意工夫を積み重ねるというそういう意味でのこの裁判所の役割というのは私は非常に重要だと思いますし、アメリカの例なんかも見てもアメリカの司法当局が、裁判所がそういう意味で非常に御努力をされているということを見るに、この点は非常に重要だと思いますが、そういう中で、そういう趣旨において知的財産高等裁判所構想というのは、私は検討に値する構想だというふうに思いますが、しかし一方、司法制度改革の観点からこの問題を考えてみますに、少なくとも日本国憲法制定以来、この憲法七十六条では、いわゆる普通裁判所というものを中心に据えるんだという、そして下級裁判所は法律で決めるということで、高裁と地裁と家裁と簡裁、この四つが下級裁判所だ、こういう方針で来たわけであります。
 そこに今回、知的財産という特定分野の裁判所を作ろうというのは、正に戦後、日本国憲法が、別に私は、これは憲法七十六条の二項で言う特別裁判所だと言うつもりは全くありません、その御議論をしてもそれはしようがないので、と言うつもりはありませんが、しかし憲法のいわゆる立法の趣旨といいますか、憲法の精神というのは、日本の司法というのは普通裁判所で多くのものを取り扱っていくんだという司法組織論の基本的な考え方があったということはお認めをいただけると思います。その代替機能として、例えば労働委員会を作るとか、しかしそれはあくまで裁判所の司法組織のフレームワークではないという整理をしてこられました。
 その観点から見ますと、今回の知的財産高等裁判所を作るというのは、そうした、戦後五十年、六十年のそうした司法組織論に対して新しい哲学というものを導入するか否かという論点を含んでいるというふうに思うわけでありますが、司法改革の御議論の中で、正にこの裁判所の司法組織論といいますかについて、どういう考え方でこの問題に臨んでおられるのかという基本スタンスについて御答弁をいただきたいと思います。

○政府参考人(山崎潮君)
 ただいま委員が御指摘の点、大変重要な問題でございます。私どもの検討会でも当然この問題をきちっと議論しなければならないということでございますが、現状でまだそこまできちっと議論が行っていないという段階でございます。
 その点で、きちっとしたことを言えないということはちょっとお許しを願いたいと思いますけれども、この知的財産高等裁判所の件に関しまして私どもで第一ラウンドの大ざっぱな議論をしたときに二つ考えがございまして、一つはやっぱり判断の高裁レベルでの早期統一、こういうことを図りたいということと、それから判決の予測可能性を向上させる必要がある。特に高等裁判所を作るについては、我が国の技術立国、知財立国としての姿勢を形として示すことが必要である、大切である、こういう考え方によるものでございます。
 一方、消極、慎重意見もございまして、現在御審議をいただいております民事訴訟法等の一部を改正する法律案におきまして、実質上の意味の知的高等裁判所、これが御承認いただければでき上がってくる、こういうようなものを少し運用してみて、その上でどういう問題点があり得るかということをチェックしながら将来考えていくべきじゃないか、こういう議論に分かれているわけでございます。そういう状況で、まだそれ以上には進んでいないわけでございます。
 確かに、我が国の裁判体系、大きく分けて下級審のレベル、四つに分かれておるわけでございまして、これに新たなものを加えるということになるわけでございます。そういう意味で、どうしてそれが一つ独立するのかということがきちっと説明できなければならないだろう、それはかなり専門技術性が強いということ、それからやっぱり早期の判断の統一、この二つがキーワードになるのかなというふうに思われるわけでございます。
 ただ、今の議論では、じゃ、ほかの分野についてこういう問題があるのかということでございますけれども、私ども、今聞いている範囲では、お聞きしている範囲では、ほかの分野についてこうすべきだという議論はほとんど耳にしておりません。この知的財産権に限られているということでございます。
 ただいま御指摘のような基本的な議論、こういうものを経まして、どうしていくかということを今後検討させていただきたいというふうに思っております。

○鈴木 寛
 何度も繰り返しますが、私は、方向として非常に専門能力の高い方が集中的にそうした知的財産訴訟をやる事実上の体制をどんどん整備することについては一二〇%賛成をしております。しかし、今日、冒頭から御議論させていただいておりますように、独立した特定分野の高等裁判所を作るということになりますと、正にそれはイコール専属的にそこにある種の事件を集中するということになります。そうすると、そこをどこで切るのか、知的財産訴訟の外縁という議論をやっぱりこれはせざるを得ないという問題があるということと、それからこの議論、今回は裁判の迅速化ということで議論が始まっているという側面も非常に重要なことだと思っております。
 要するに、ただ単に迅速にやればいいという話ではなくて、正に訴訟関係当事者の納得といいますか、要するに事件が具体的に満足度の高い形で解決をされるということが我々の本旨である。その中で、もちろん専門性の高い人材による専門の機関がそのことに主として携わるという方向については、これはいいわけでありますけれども、しかしその議論を進めてまいりますと、この裁判迅速化の質疑の中でも、例えば医療関係とか建築関係というのは非常に技術と関係が複雑だ、それについては専門技術性が必要だ、こういうことになりますと、そのロジックを延長してきますと、じゃ知的財産高等裁判所を作りました、じゃ次は医療高等裁判所を作りますかと、こういう話に、それを、私は議論として、構想として十分に検討に値すると思いますが、内閣総理大臣が本部長の本部ができるたびに一つ一つ高等裁判所ができる、それもあるべき国の姿としては私は非常に検討に値する議論だと思いますので、私は決してノーと言っているわけじゃないんです。
 ただ、それは正にこの国の形をどうするのかと。そもそも司法改革というのは、正に事前規制型の、そしてそこに行政が過度に事前に介入するという社会から、正に事後救済、事後調整型の社会にしていこうじゃないかという中で司法の持っている役割というのはより高くなるんだ、その中で専門性を追求する、この理屈までは分かるわけでありますが、しかしやはり普通裁判所を中心としてきた大きな大原則に、そういう特定分野の、特別裁判所という言葉はあえて使いませんけれども、というものを入れるのであれば、理念と整理というものをやはりきちっとしていただきたい。
 こういうことを是非問題点として、もう詰めていただいているという話でありますが、そういう論点も、こういう話というのはなかなか大事だと思うんですけれども、とりあえず目の前のいろいろな課題を解決しなきゃいけないという現場の方になってしまいますとどうしても後回しということになりますので、それをまたきちっと基本に戻させていただくというのも国会の一つの役割かと思いますので、あえてこういう議論を提起させていただいておりますので、是非引き続きの検討の中で御留意をしていただきたいと思います。
 もう一つ、私が知的財産関係で、しかし知的財産にかかわらず、これがこれ以外の裁判の在り方にも影響を与えるということで注目をいたしておりますのが、正にADR、裁判外紛争処理の問題であります。これも広い意味で言えば裁判の迅速化、裁判といいますと裁判でありますから。しかし、国民の権利実現、権利救済の迅速化、充実という満足感の高いという観点からいいますと、正にこのADRというものも司法改革の中で重要な要素を占めるというふうに思います。
 このことは、平成十四年三月十九日の閣議決定、司法制度改革推進計画の中でも、ADRの重要性というものが位置付けられております。その中で、知的財産調整センターや、あるいは弁理士会などがおやりになるADRというものの重要性ということが十四年の閣議決定でも、そして恐らく今日の夕刻に取りまとめられるであろう知的財産の計画でも、この両方で重要性が指摘されているわけでありますが、一年この司法制度改革推進計画が取りまとめられてからはたつわけでありまして、この知的財産調整センターなどのADRというのはどれぐらいこれワークしているでしょうか。
 まず、現状についてお教えをいただきたいと思います。

○政府参考人(太田信一郎君)
 お答えいたします。
 日本知的財産仲裁センター、平成十年三月に設立されました。当時は工業所有権仲裁センターと呼んでおりましたが、平成十三年四月から日本知的財産仲裁センターと名称を変えました。十年の設立以後、今年の七月現在で三十八件の調停、仲裁の申立て、内訳は調停が三十六件、仲裁が二件でございます。それから、二十一件のJPドメイン名紛争処理申立てを取り扱ってきております。
 このセンターにおきましては、専門知識や経験を有する弁理士、弁護士が、それぞれの紛争について詳細な検討を行った上で、公平中立な判断の下に紛争の実情に応じて最善の解決案を提示しております。
 この結果として、利用者としては、一つには、非公開手続でございますので当事者の秘密が守られると。二つ目には、集中的審理によって短期間での紛争解決ができると、大体四、五か月、平均ですね。それから、裁判より低廉に紛争を解決することができる等のメリットがあるというふうに考えているところでございます。これらのメリットや、知的財産紛争の今後また増加も予想されますが、そういうことを踏まえて、今後の同センターのより一層の利用の拡大を期待しております。
 委員御指摘のように、本日取りまとめられる推進計画の中でも更なる拡充、活用ということが指摘されるかと思います。そういうことを踏まえて、政府としてもしっかり取り組んでいきたいというふうに考えているところでございます。

○鈴木 寛
 ありがとうございます。
 是非、この手のADRというものは、今は知的財産のことについて特許庁長官から御答弁いただきましたが、のみならず、このADR制度というものを充実をしていっていただきたいと私は思うわけでありますが。
 司法改革本部にお尋ねをいたしますが、この点についてはどのような今後の取組を考えておられるか、御答弁をいただきたいと思います。

○政府参考人(山崎潮君)
 委員も御案内のとおり、司法制度改革につきましてはその範囲がどこかということが前提になるわけですけれども、司法のみならず裁判外紛争処理、その手前のいろいろな処理ということも含んで計画をしているということでございます。このADRに関しましては、今、この参議院にこれから御承認をいただくべくお願いをしたいわけでございますけれども、仲裁法、これ正にADRの最たるものでございます。これが一つの成果ということでございます。
 それと、それ以外のものについて、一般的なADR、ただいま知財関係のADRが御紹介されましたけれども、これ以外にも多々ございます。これについて、個々のものについて全部私どもの方でやるというのはなかなか難しいわけでございますけれども、それに共通する制度的基盤や共通なルール、こういうものをどうしていくか、あるいは裁判との関係をどうしていくかとか、例えばADRのところに申立てをした事件について時効の中断がするのかしないのかとか、それが終わった後、不調に終わった後、例えば裁判に訴えて出たと、そういうときにどういうふうにつなぐかとか、様々な問題がございまして、今鋭意検討中でございますけれども、可能であるならば、共通の法律といいますか措置、こういうものを定めていきたいなということで今準備をしておりまして、うまくまとまれば来年の通常国会には御承認を得たいというふうに考えております。

○鈴木 寛
 今日の主たるテーマは正に裁判の迅速化といいますか、国民の権利の実現をどういうふうに迅速、充足させるかということだと思いますが、その中でADR、非常に重要だと、おっしゃるとおりだと思います。これは知財計画の中にも書いてあるわけでありますが、特許審査の迅速について少しお伺いをしたいと思います。
 これはまず、その中身についてお伺いをしたいと思うんですが、そのお伺いをする趣旨は、正に、例えば特許侵害あるいは特許関連の紛争を抱えた当人からいたしますと、正に行政庁ではありますけれども、行政審判があって、そしてそれが不服の場合はその次に正に裁判所と、こういうふうに行くわけで、これはトータルで、正に紛争が生じてから、それが解決されるまでということで見れば、その主体からすれば、これは行政庁だとか、これはADRだとか、これはセンターだとか、これは裁判所だとかというふうなことは、プロの目からすれば非常に、まあそれぞれに分けて考えていかなきゃいけないことかもしれません。正に国民オリエンティッドといいますか国民本位の立場からしますと、正にそういったものが有機的に結合をして連携をして、正に権利の救済というものが早期に、かつ納得のいく形で図られるということだと私は思っています。
 その一つとしてこの知的財産訴訟について今日はずっと御議論をさせていただいているわけでありますが、その大前提として、計画でも取り上げられております特許審査迅速化法の検討状況についてお話をいただきたいと思います。

○政府参考人(太田信一郎君)
 特許の審査については、御案内のように、現在、審査請求をした後の待ち期間が大体二十二か月から二十四か月になっております。これではなかなか本当に知財でもって国を立てる、競争力を強化するということはままならない状況でございます。ただ一方で、大変な滞貨が積み重なっているのも事実でございます。ということで、昨年の知財戦略大綱、それから知財基本法、今回の知財推進計画で特許の迅速かつ的確な審査をどういうふうに実現するかということで、かんかんがくがく議論が行われ、かつ議論を進めただけではなくて、私ども、先行技術調査のアウトソーシングの徹底あるいは審査補助職員の更なる活用、さらには今国会でお通しいただきましたけれども、特許法を改正して、料金体系の変更等もさせていただいたところでございます。
 ただ、世界最高水準の迅速的確な審査ということが我々の目標でございます。そうだとすれば、今後、恐らく八十万件ぐらいに及ぶであろう滞貨をいかに削減するかということがやはり喫緊の課題になるかと思います。そういうことで、例えば恒久的ではない任期付きの審査官を確保してそういう削減に当たらせることも含めて、現在、政府の中で議論をしているところでございます。
 いずれにしても、今のままではなかなか知財立国と標榜するには十分じゃないということは十分承知の上で、これからの努力を更に強めていきたいというふうに考えているところでございます。

○鈴木 寛
 今、長官から御決意のほどは聞いたわけでありますが、特に特許審査員の大幅増員というのは大変に強い社会的要請だと思いますが、この点について是非取り組んでいただきたいと思うんですが、その点について改めて御答弁をお願い申し上げます。

○政府参考人(太田信一郎君)
 現在、特許庁には特許実用新案で約千百名の審査官がおります。アメリカのUSPTO、ヨーロッパのEPOですと、大体三千名ぐらいおられると承知しております。ただ、私どもの特許庁の審査官、一人当たり毎年百八十件ぐらいの案件を審査しておりまして、アメリカ、ヨーロッパの二倍から三倍の効率を上げております。
 ただ、委員御指摘のように、それから先ほど私御答弁申し上げましたように、大変滞貨がたまっておるということで、当然のことながら着実に審査官の増員を図ると同時に、その滞貨についてやはり緊急的に、仮に任期付きの審査官であっても、そういう審査官を確保して滞貨の削減を図ることが私どもとしては大変重要な課題であると、そういう方向に向かって関係各省の御理解も得ながら進めていきたいというふうに考えておるところでございます。

○鈴木 寛
 司法改革本部にお尋ねをいたしたいと思いますが、正にこうした行政庁の審判、それから今回の例えば人事訴訟法、民事訴訟法で流れている精神というのは、正に事実上、先ほどの特別裁判所の大きな議論は別といたしまして、実態上として正に、裁判所に来た訴訟については、知財は知財として非常に効率良く、あるいは人事訴訟なら人事訴訟もきちっと対応していくと、こういう整備を手当てをしていこうということだと思います。
 その裁判所の中の整備については、これは方向性としてこの方向、それをきちっと進めていただきたいと、こういうことになるわけでありますが、是非、司法改革の中で御議論をしていただきたいのは、正に国民の側からしますと、正に紛争が起こってから解決されるまでの時間を短縮していただきたいというのが、これが本来のニーズだったわけでありまして、そういう意味でいいますと、例えば行政庁の審判との有機的結合、あるいはADR、こうしたものをトータルにやはりきちっとマクロで見て、そこまで、それを司法改革と呼ぶのかどうかは別といたしまして、御検討をどこかはしていただかなきゃいけないというふうに思っておりますが、正に国民の権利救済を充実かつ迅速化をしていくという観点で御答弁、あるいはどういう御検討をこれから、今までされており、これからされていくということなのか、お答えをいただければというふうに思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(山崎潮君)
 ただいま御指摘がございました、言わば準司法的機能ですか、これを営みます行政審判と裁判の連携強化の問題だろうと思いますけれども、これは、一定の限界はあるにせよ、最終的な紛争解決を担う裁判の充実・迅速化を図る趣旨からも大変重要な問題であると我々、自戒はしております。
 この司法制度改革全体の中で、今、行政訴訟、これの関係の改正について検討を加えておりますけれども、これは現在のところ、残念ながら、行政訴訟の段階の手続について検討を加えておりまして、じゃ、その前にあります不服審査等、これは相当なものが、分量が種類も含めましてあるわけでございますが、ここのところは行政プロパーの問題だということで、今、私どもの方では着手はしていない、残念ながらしておりません。そういう状況でございます。
 ただ、今、委員が御指摘の中で、知的財産との関係では、これは、御案内のとおり、侵害訴訟の中で、そもそも特許権が無効だという、そういう抗弁が出てくるわけでございまして、現在、判例の中でごく狭い、狭いというか、かなり強い要件を付けまして、その要件をクリアするものについては判断をするということが行われておりますけれども、これについてはいろいろな御議論がございまして、現在、私どもの方でこのテーマを取り上げてございます。その要件を今の判例のような要件にするのか、もう少し緩めるのか、そういう主張が出たときに、同時に行政庁の方に無効審判の申立てが行われている場合もございますので、そちらとの関係をどのように訴訟と連携させていくかということです。このような方法についても現在検討中でございます。
 そういう意味で、非常に狭い範囲で恐縮でございますけれども、双方の連携、これは国民にとっては、どちらでやられようが早くいい結論を出してほしいという願いの表れでございますので、その点は現在検討しておりまして、これについては成案をなるべく得て、来年御承認を得られればと、こういうことでございます。

○鈴木 寛
 是非、今の方針で更なる御検討をいただきたいというふうに思います。
 もう少し知的財産の話、あるいは計画にまつわることについて御議論をさせていただきたいんですが、どうもやっぱり最近のいろいろな議論を見ていますと、どうしても効率化とかあるいは経済的価値優位とか、そういうことの中でいろいろな検討なり改革が行われていくということについてやや違和感があるのかなというのが世論の動向かというふうに思いますが、その中の一つで、先ほどの知財計画の中でも、そうやっていろいろ言おうかなと思って読んでみますと、計画にはまた入っているんですね。
 例えば、私は、一九八〇年代のアメリカのプロパテントをそのまま入れることについては反対だと、こういう話を申し上げました。それは正に、計画でいいますと九ページなんでありますが、そこでは正に、権利の強化はもちろん重要なんだけれども、その弊害というものもきちっと考えていかなきゃいけない。
 すなわち、競争上の弊害と表現の自由、さらにはこの下の方に、学問、研究の自由。私は、これはもちろんプロパテントも重要でありますが、しかしアメリカは、それと同時に非常に厳格な独禁法の運用、適用、運用というのがなされている。この車の両輪でもってアメリカのプロパテント政策というのはそれなりにフェアネスを確保して、公正さを確保して根付いているんだというふうに思います。
 でありますから、その意味では、正に競争上の弊害の除去、独禁法をどういうふうに適用していくのか。しかしこれ、日米の独禁法の適用状況、あるいはそれを実施する当局の体制というものを、これを比べますと、本当にこれ雲泥の差があるわけでありまして、そういう中で、お触れはいただいておりますけれども、競争政策上の配慮といったもの、あるいは表現の自由の確保、それから、実は今日同日で文教科学委員会では国立大学法人法の議論がなされておりますが、正に学問、研究の自由とか、これは正に経済的な価値、利益以上にといいますか、あるいはそれと相まって極めて重要な経済社会を構成する要素の一つだと思います。
 もちろん、経済的な繁栄を達成するためにも、やはり学問、研究の自由とか独占禁止法の競争政策上の弊害の除去とか、こういう問題というのは中長期的な日本経済の発展に私は不可欠だというふうに思っておりまして、こういう点について、知財本部は、正にバランスの取れた適切な対応とおっしゃっておられますが、具体的にどういうことを考えて、どういうふうに取り組んでいかれるのかということについて御答弁をいただきたいと思います。

○政府参考人(久貝卓君)
 御指摘の、競争政策と知財政策のバランスの点でございますけれども、まず一点申し上げたいことは、現在、知財本部でこういう知財の推進計画の決定に向けた検討を行っている背景でございますけれども、それはやはり、低廉な労働コストを背景としましたアジアの追い上げという状況で、我が国の、そういう状況に直面して我が国の産業の競争力というものを強化する、それを通じて我が国経済社会の再活性化を図っていくというためには、やはり知財活動の成果を知的財産として保護する、これを経済成長の基盤に据えるという、こういう認識が根底にあるということでございます。
 このため、この推進計画におきましても、知財を国富の源泉と見て集中的、計画的に実施すべき施策をこの計画の中に盛り込んでおりますけれども、その中の柱は、知財創造のインセンティブを向上させるために知財の保護を十分なものとするということでございまして、この点は、先ほどの御指摘の有体物たる物とは異なり、情報が極めて容易に模倣されるというその特性からも正当化されるというふうに考えてございます。
 他方、御指摘のとおり、今後、我が国が知財立国を実現するに当たっては、やはり知財強化の一方で、競争政策、表現の自由に配慮ということも不可欠でございまして、その点につきまして、この計画においても、正に知的財産の強化と競争政策、表現の自由のバランスを取るという旨を推進計画の中に明記してございます。
 この点にも配慮して知財立国を目指すと考えておりまして、具体的なことというのは、各論の方でも少し触れてございますけれども、例えば特許の標準化におきまして、むしろパテントプールを形成するときに独禁法とのバランスを図るとか、あるいは先ほど、研究の、学問の自由との関係で非常に重要な、汎用性の高い重要なリサーチツールというものを特許で過剰に保護しないように、その点について自由にそういうツールが使えるような工夫を検討するとか、そういったことにつきましてもこの計画の方では触れておりまして、正にバランスを取ってそういう知財立国を進めていこうという考えに立っております。

○鈴木 寛
 それでは、少し、もうちょっと具体的に聞いていきたいと思うんですが、これは、今、大学関係者の中でもちろんこのプロパテント、TLOというのが出てきた、これはいいことだと思ってはいますが、一方で、ある意味での混乱があることも否めないと思います。
 例えば、今まで研究者というのは、余り特許のことを気にせずに本当にいい研究をしようということで、学内でいろんな自由な意見交換をし、そして自由に論文を書き、そしてそれを発表するということをやってきたわけであります。しかし、自由に意見を発表し、そして自由に論文を書くということは発明の新規性を喪失するという可能性といいますか、おそれがあるということを研究者たちは最近突然聞かされて、自由に論文書けないのか、自由にいろんなところで学会発表できないのかと、こういう混乱が一部に生じていることも事実であります。正に、公然に知られた発明とかそういう難しい特許法上の用語がいろいろ出てきて、過剰に防衛しているというのが、特に理工系の研究者の中ではそういう傾向がやや心配をされるわけでありますが、正に学問、研究の自由、そしてそういうことが迷わないように判断基準をきちっと作っていくんだというようなことが方針として示しておられますが、その点どういうふうな具体的な取組をされているのかについてお教えをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(太田信一郎君)
 幾つかの点についてお答えをさせていただきたいと思います。
 大学に限りませんが、民間の企業の研究者等でも、自分が発明した特許が、発明したものが本当に特許になるかどうかということで、なかなか判断基準が分からないで迷っておるということがあるかと思います。
 今度の推進計画においても盛り込まれると思いますが、一つは、特許を受けることができない公然知られた発明という概念がございます。これは特許法二十九条で、特許を受けることのできない発明として、特許出願前に公然実施された発明、これはもう実施されていますので、その後だれかが特許を取ろうとしてもできません。それから、頒布された刊行物に記載された発明等と並んで、これも、刊行物に記載された発明は特許を取ることはできません。もう一つ、特許出願前に公然知られた発明ということが三つ目の特許を受けることのできない発明として言われているわけでございます。
 ここで言う公然知られた発明の解釈としては、私ども特許庁としては、不特定の者に秘密でないものとしてその内容が知られた発明を意味するものとして、審査基準を定めて公表しているところでございます。
 したがいまして、観念的には、一般的な守秘義務を負う者の間で意見交換が行われた場合のような、そういう発明が秘密を保ったままである場合は、公然知られた発明とは解釈されません。逆に言えば、秘密でなくなった場合は、公然知られた発明とされて新規性を失います。新規性を失えば特許は受けられないことになります。
 ただ、先生御指摘のように、特に大学の関係者の間では、一体どういう場合に公然と知られたものか、そうでなくなるのかということが必ずしも周知がされていないというふうに我々理解しているところでございます。
 したがいまして、私ども、文部科学省さん等と一緒になって、特許法上どういう運用になっているか、これは、別に日本の特許法だけじゃなくて各国共通の、基本的には共通のルールでございますので、そういうルールの周知徹底と、要すれば、そういうことを踏まえた上で、大学等においてどんどん特許を取っていただきたいということが我々の思いでございますので、そういう努力を続けていきたいと思っております。

○鈴木 寛
 グレースピリオドの見直しについてもお話をいただきたいと思いますが、今の長官のお話はこういうふうにざくっと言ってしまっていいでしょうか。今までどおりどんどん自由に研究をしてください、あとはTLOの関係の専門家の方にきちっと、何か心配があればちょっと聞いていただければいいわけであって、プロパテントになるからならないからということで、従来やっていた研究活動自体そのものが何らかの影響を及ぼされるというわけでは常識的にはないというふうに、やっぱり安心をしてもらわなきゃいけないと思いますし、もちろん、そのための体制としてTLOが学内にできて、そうしたことについて何か心配があった場合にはきちっとその対応をしていくと、こういうことだというふうに思いますので。
 今ちょっと質問が二つになりましたが、一つは、いわゆる新規性の問題に絡んで、新規性喪失の例外のグレースピリオドの期間の見直しが、議論がどうなっているかということを特許庁長官からお答えをいただいて、そして、いわゆる大学と、そして大学の研究活動と特許を取っていくという、これのうまい整合性といいますか有機的連携というものを促進する上でのTLOの連携強化といったことについて、この二つの御質問をさせていただきたいと思います。

○政府参考人(太田信一郎君)
 それでは、グレースピリオドの御質問について私からお答えして、大学におけるそういう運用というか事の運び方については岩田審議官から御答弁をさせていただきます。
 グレースピリオドでございますが、一般に特許出願に係る発明がその出願より前に公にされた場合は、先ほど申しましたように、発明の特許性がないとされて特許を受けることができなくなるのが大原則でございます。特許法では、ただしこの新規性喪失に例外規定を設けております。論文発表等特定の理由により公となった場合に限り、その後一定の猶予期間内に、現在日本は六か月でございますが、特許出願をした場合は当該発明の新規性が喪失しないこととしております。この猶予期間がいわゆるグレースピリオドと呼ばれております。
 現在、アメリカ、欧州及び日本の間では、グレースピリオドの要件、期間が異なっているということで、国際的な制度調和に向けた議論がなされております。他方、大学あるいは産業界からはこの期間の延長等についての要望も寄せられております。
 特許庁といたしましては、このグレースピリオドを含む期間の問題、それから対象を広げるか広げないかということで、その新規性喪失の例外規定の在り方について、国際的な議論の動向もきちんと踏まえながら検討していきたいというふうに考えているところでございます。

○政府参考人(岩田悟志君)
 大学とTLOとの連携の強化という観点についてお答えをさせていただきたいと思います。
 TLOにつきましては、委員も御案内のとおり、大学の研究成果、これを産業界へ移転する、こういった事業を促進する観点から整備を進めてきておりますけれども、既に、TLO法に基づきまして三十三、全国に三十三の機関、これを承認をいたしてございます。これまでいろいろな活動をしてきておりまして、その中で、研究成果の市場性の判断あるいはマーケティング、いろいろ技術移転にかかわるノウハウ、こういったものが蓄積されてきてございます。
 今後、大学との関係でございますけれども、大学がいろいろな研究成果の特許化の判断を行うという際には、こういったTLOの蓄積、経験、こういうものを十分に生かすということが非常に重要ではないかと考えておりまして、そういう意味で、大学とTLOとの間の連携体制、これをしっかりしたものにしていくということが重要であると考えてございます。
 具体的には、現在、産業構造審議会の産学連携推進小委員会という場で大学とTLO、具体的には知的財産本部とTLOでございますけれども、連携の在り方につきまして、言わばそのモデル、これを御議論いただいておりますほか、これまでに、既に当省といたしまして、TLOに対する技術移転事業への補助あるいは特許料の減免、いろんな支援措置を講じてきておりますけれども、これらの措置を更に拡充をしていく、あるいは、推進計画の中に別途記述がございますけれども、TLO協議会というのがございまして、これに更に大学も入っていただくということで、TLOと大学、相互の情報交換、意見調整、こういったものを実施していくと、こういった形で大学とTLOとの連携強化ということに努めてまいりたいと考えております。

○鈴木 寛
 ありがとうございました。
 プロパテントに対して違和感がある勢力の一つとして、そういう、違和感じゃないんですけれども、よりきちっと理解をしてもらいたい勢力としての大学人ということで、今御答弁をいただいたわけでありますが、やはり日米のこのプロパテントに対する世論の盛り上がりの違いというのはどこにあるかといいますと、やはり、宝の持ち腐れとかあるいはそういったものが死蔵されているとか、要するに未利用特許の問題は非常に大きいと思うんです。恐らく未利用特許の問題が解消されて、特許権がどんどんどんどん、今回の計画でも保護及び活用と書いてあるわけでありますから、日本の場合は実態上活用がやっぱりなかなか促進をされていないと。よって、保護ばかり強めてしまうと、より知というものが使いづらい方向に、本来特許権を設定するということは知を使いやすくするということであるにもかかわらず、日本の現状の実態を前提に考えてしまうと何かそのところが違和感がある人たちが多いなというふうに思います。
 そういう意味で、このプロパテント政策を進めていただく大前提として、先ほどの独禁法をきちっと運用をしていくとか、表現の自由とか、あるいは研究教育の自由を確保していくということと同時に、特許運用の本体の議論としては、やっぱり未利用特許をいかに利用を促進をしていくかということについて様々な方策が講じられなければいけないと思いますが、これ、いろいろ考えておられることを全部包括的にお話をいただければというふうに思います。

○政府参考人(太田信一郎君)
 未利用特許についての御質問でございますが、現在、我が国では約百万件を超える特許権が存在しております。その三分の二は大企業などが有する未利用の特許というふうに承知しております。そのうち三分の二の二分の一でございますが、全体の約三分の一、約三十四万件につきましては他者への開放の意思がある特許でございまして、我が国の産業競争力の強化のためにはこのような未利用特許をベンチャー、中小企業などが有効に活用できるような環境整備、特に特許流通市場の整備が必要であると考えております。
 こういうことで、特許庁では、独立行政法人工業所有権総合情報館を通じて特許流通アドバイザーを派遣したり、あるいは開放可能な特許を登録した特許流通データベースを整備する等々、特許流通促進事業を実施しておりまして、これまで過去六年間に二千八百六十四件のライセンス等の契約の実績を上げております。利用者の皆様から高い評価をいただいているところでございます。今後とも、そういう努力を着実に実施していきたいと思っております。
 もう一つ、これ日本にはまだそういう制度はございませんが、ライセンス・オブ・ライトと、これは実施許諾の意思を登録する制度で、ヨーロッパの幾つかの国ではございます。英国、イギリス、フランス、ドイツ等では、特許権者が実施許諾の用意があると公に意思表示した場合、第三者からライセンスの申入れがあれば、一定の手続に従って実施許諾をする義務を負う代わりに特許料の減額を受ける制度が採用されております。このような制度が、今申しましたようにライセンス・オブ・ライトと呼ばれておりますが、特許権者が独占的実施を希望しない特許発明を広く実施させることにより、その実施を公衆に開放して特許発明の利用を促進するとともに、特許権者は特許料低減の利益を享受できるということで、両方とも得するという目的で導入されていると理解しております。
 ただ、本当にこれが広く活用されているかというのは必ずしも自信を持って私もお答えできないんですが、いずれにしても、こういう制度を参考にしながら、かつ、そういうことを先行的に実施している国の状況はどうかというのをしっかり調べながら、このような制度の導入の是非について議論をしていきたいと。当然のことながら、未利用特許をいかに流通を促進するかという目的の下に、考えられることはしっかりやっていきたいというふうに考えているところでございます。

○鈴木 寛
 今日は知的財産訴訟というものを例に取りまして、具体的に国民の皆さんの中で起こった権利をめぐるいろいろな問題、あるいはその前提として、権利をきちっとまず創造をして確定をさせていくと、そしてその活用をしていくということ。で、要は、そのことにより、ただ単に迅速化をするということではなくて、専門の人材を、専門の体制をなるべく集積をして、そして更に言えば、もちろん裁判には、具体的な事件をより納得いく形で解決をしていくという目的と、そして将来の法的予測可能性を作っていくという、この二つの目的があろうかと思いますが、しかし日本の、結局今の裁判の抱える問題は、この二つでいえば、どちらかといえば、やはり個別具体の訴訟関係当事者の納得感というものをより、いかに正にカスタマーサティスファクションを改善をさせていくかと、こういうことだったと思います。
 その観点から、もちろん裁判官の方が、より専門な方が集まっていくと、というとともにこの専門委員という制度で非裁判官の方々がそういうチームをお手伝いをしていくということかなというふうに、そういう方向に進み出したということだというふうに理解をいたしておりますが、そういう中で、私は、専門委員、あるいは人事問題については参与員ということだと思いますが、より多くの、かつ優秀な方々にどんどんやっぱり専門委員、参与員として御協力をいただかなきゃいけないというふうに思っております。そのことが正に今回の改革の趣旨に適合すると思いますが。
 一点だけお伺いをしたいのは、もちろんお気持ちとしては、専門委員、参与員として世の中の正義の実現のために貢献をしたいと思っておられる方は大勢いらっしゃると思います。しかし、これを受けるとどういう不利益があるのかということをもきちっと分かった上で御協力を、安心してお引受けをいただくということが必要だと思いますので、専門委員になったときの何かこういう義務が生ずるとか、こういう不利益が生ずるとか、そういうことがどういうことがあるのかということについて御説明いただければと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(房村精一君)
 専門委員に任命をされ、あるいは具体的事件について指定を受けて関与した場合ですが、これは当然、その職務上知り得た秘密についての守秘義務と、こういうものは負うことになりますが、それ以上に、特に専門委員であるからこういう不利益があるというようなものは今回の法案では考えておりません。

○鈴木 寛
 特に不利益がないということでございますので、その点は安心をいたしました。
 それでは最後に、少し、ちょっと時間が余りましたので、今日は知的財産の問題で、それが正に二十一世紀の時代、中心となる、そのための権利実現の話を御議論させていただいたわけでありますが、今日は特許庁長官お見えでございますので、特許庁長官は正に日本の知的立国のために様々な御努力をされてこられまして、今もなおその任にあるわけでありますが、今後、正に日本を知的創造立国にするためにどういう点に留意をしながらやっていかなければいけないのかということについての思いのたけを御答弁をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(太田信一郎君)
 いや、突然の御質問をいただきましてあれですが、我が国の場合、昨年二月に小泉総理が施政方針演説で知財立国を国の、国家目標とするということを言われて、知財推進大綱が七月にできました。その後、国会で、臨時国会で知財基本法を成立させていただいて、今年の三月から小泉総理を本部長とする推進本部が立ち上がりまして、現在推進計画を策定中で、正に本日、推進計画がまとまると。
 私としては、先ほど鈴木先生からお話があったように、別に、アメリカがプロパテント、確かに十年、二十年進んでいるかと思いますが、要は日本の産業の競争力、企業の競争力を知財でもっていかに強くしていくかということで、やはり関係者、特許庁はもちろんその一翼を担うつもりでございますが、政府全体、あらゆる省庁関係しているかと思います。それから、大学、企業、それぞれの関係者が持てる力と知恵を本当に振り絞って、国を立てられるかどうかというぐらいの重い課題ではないかと思います。
 まだまだ関係者は努力が不十分だと思います。私どもも決して十分だと思っていません。特許庁を挙げて今後ともしっかり取り組んでいきたいと思っておりますので、よろしく御支援のほどお願いしたいと思います。

○鈴木 寛
 初代特許庁長官は高橋是清だということで、明治十七年に特許庁ができて、第七十二代目が太田長官とお伺いをしておりますが、正に国づくりの根幹というものがいかにこの知的なるものを確立をしていくかということで、引き続き、この二十一世紀、日本を支える基盤として知的財産立国のために院を挙げても、私もその一員として頑張っていきたいというふうに思いますので、そのためのその的確な権利の創造、そして保護、そして活用、そしてその実現ということが今後の司法の現場でも行われることを強く望みまして、私の質問を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。

 


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