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 法務委員会 質疑 〜民法改正案(担保物権・民事執行制度改善)などについて〜

2003年07月22日 


○鈴木 寛
 民主党・新緑風会の鈴木寛でございます。
 担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部改正法律案について質疑をさせていただきます。
 冒頭に厚生労働省にお伺いをさせていただきたいと思いますが、午前中の同僚の千葉委員からの質疑の中でもございました、正に労働債権と租税債権あるいは担保債権との関係についての御質疑を受けて、更に質問をさせていただきたいというふうに思います。
 御答弁は、これは例えばILO百七十三号条約などにもあって、その批准、それに伴う国内法の整備といったものと絡んでくるわけでございます。この重要性については、この委員会の質疑の中で、政府側も含め共通の理解が得られたとは思いますけれども、しかし、今回の改正案の中に盛り込まれてないことは事実でございます。そして、この労働債権のいわゆる劣後問題については、ただいまUIゼンセン同盟政策局長の逢見参考人からも強く再考を求める御意見がございました。そうした御議論を踏まえまして、私は再度質問をさせていただきたいと思いますが。
 今回の法律の提案理由説明の中に、正に社会経済情勢の変化ということがうたわれてございます。昨今のこの経済情勢の大変に厳しい、そしてその中でいわゆる賃金の不払というものが行われていて、そしてそれが実質的に解消できないと。こういう、正に社会経済情勢の変化というものを抜きにこの問題は論じられないんだというふうに私は思います。そういう意味で、いわゆる広義のということで御理解をいただきたいわけでありますが、要するに、一生懸命働いて、汗水垂らして働いたその対価がもらえないと。これを取りあえず今日の議論では賃金不払の実態と、そしてそれが解消されないということも含んでお話をさせていただいているわけでございますが。
 この正に倒産あるいは経済、経営状況の悪化に伴う賃金不払の状況というものについて、厚生労働省は今どのように把握をしておられるのか。正に社会経済情勢の悪化の状況について御説明をいただきたいと思います。

○政府参考人(青木豊君)
 賃金不払の状況でございますけれども、必ずしも倒産に伴う賃金不払ということではございませんけれども、賃金不払全体で、平成十年から平成十四年までが一番新しい数字ですが、を見ますと、平成十年、一万六千件強でありましたのが、平成十四年では二万三千三百五十六件ということでございます。対象労働者にしまして五万四千余でありましたのが、平成十四年には七万二千三百六十一人ということになっております。不払賃金額が、平成十年には二百三十八億円余でありましたのが、平成十四年には二百七十六億五千五万七千円というようなことになって、増加しているという状況でございます。

○鈴木 寛
 ありがとうございました。
 正にこの四年間の中で、間で、件数で見ても対象労働者の数で見ても、正にこの救済すべき実態というのはいろんな意味で一・五倍ぐらいになっていると。この経済情勢の急速な変化というものをやはり我々はきちっと認識をすべきだというふうに思いますし、その点を踏まえて、正に午前中議論となりましたILO百七十三号条約の批准、そしてさらには、この国内法制の再整備ということについては、引き続き我々はこの国会でも、あるいは関係御当局にあられても更なる検討を継続をしていただきたいし、更に深めていただきたいというふうに思いますが、厚生労働省、いかがでしょうか。

○政府参考人(青木豊君)
 今御質問のありましたように、百七十三号条約も大変、労働債権の保護という点では十分議論され、大変重要な問題だというふうに思っております。様々な議論がある中で、こういったことも踏まえまして、厚生労働省におきまして、専門の学者から成ります研究会を組織いただいていろんな議論をしていただきました。かなり深く御議論いただいたと思っているわけでございますが、まだ更に議論を深める必要があるという結論でもございましたし、私どもとしては今後とも、労働債権保護の方策とか問題点、必要に応じて研究し、勉強していきたいというふうに思っておるところでございます。

○鈴木 寛
 これ、是非与党の委員の先生方にも御認識をいただきたいと思うんですが、これは労働債権の定義いかんだとは思いますけれども、例えば個人事業者とか中小零細業者とか、とにかく一生懸命働いて、そして労務を行って、そしてその対価が解消されないという事態に対してどういうふうに取り組んでいったらいいかという問題でございますので、正にこの委員会を挙げて、この問題については引き続き、是非更なる御検討をお願いを申し上げたいというふうに思っております。
 厚生労働省、もう結構でございますので。ありがとうございました。
 引き続き、この労働債権関連で御質問をさせていただきたいと思いますが、これも午前中の審議で、何が変わったのかという御答弁の中で、商法と同じようになったと、こういう御答弁でございましたが、商法と同じというのは何が同じなのかということで、今回、正に雇人の給料といったものがより拡大をされたということでありますけれども、少し、何が増えていったのか、外延がどう広がっていったのかということについて二つの観点から御説明をいただきたいと思います。
 その一つは、給料というものがもう少し広がったということが恐らく一つあるんだと思いますし、それから雇人というところが、このいわゆる対象とされる当事者が広がったと、この二つの観点があると思いますが、それぞれの観点について、今回の改正で何が具体的に広がっているのかということについて御説明をいただきたいと思います。

○政府参考人(房村精一君)
 御指摘のように、同じ労働債権に係る先取特権でございますが、商法と民法ではその保護の範囲が異なっておりまして、商法では会社と使用人との間の雇用関係に基づき生じたる債権と、こうなっておりますのに対して、民法では雇人が受くべき最後の六か月間の給料に関して先取特権が認められると、こうなっております。
 今回、この民法の規定を商法の保護の範囲に合わせるという改正をしたわけでございますが、まず第一に違ってまいりますのが、その人の範囲でございます。
 これは民法で現在雇人と書かれておりますことから、一般的にはこれは、民法の典型契約である雇用契約に基づいて雇われている人、その人が対象だと、こういう具合に理解されております。これに対しまして商法の、会社と使用人との間の雇用関係と、こういう定義でございますので、これは、雇用契約に限らず、委任あるいは請負と、こういうような契約形態を取っていてもその実質が雇用関係と認められれば先取特権の保護が与えられると、こういうことが言われておりますので、今回、商法に合わせて、この雇用関係ということで広い範囲に一致させたということでございます。
 それから次に、その債権でございますが、これが民法では給料と、こうなっておりますので、給料債権、解釈で、退職金についてこれは給料の後払いだというようなことで六か月分認めるという解釈がなされておりますが、いずれにしても給料債権に限られております。これに関しまして、商法では雇用関係に基づき生じたる債権ということですので、もちろん給料が中心ではございますが、例示されております身元保証金とか、必ずしも給料に限らず雇用関係に基づいて生じた債権であれば広く入ると、こういう性質上の差がございます。
 それともう一点、民法では最後の六か月間という期間の限定がございますが、商法では雇用関係に基づき生じた債権であればその全額が保護の対象になる。
 以上の点が今回の差でございます。

○鈴木 寛
 正に実質的ないわゆる雇用関係に注目し、委任あるいは請負という契約形態であっても含むんだというのは、大事なといいますか、重要な改正でありますし、望ましい改正だというふうに私も評価をいたします。
 それで、実質的な判断は後は裁判所だと、こういうことかもしれないんですけれども、やはりもう少し御議論を深めさせていただきたいというふうに思っております。
 最近のいわゆるリストラクチャリングといいますか、経営革新の手法の一つといたしまして、例えば課長さんとか部長さんとかといった管理職、総務をやったり営業部長さんをやったり経理部長さんをやったりという方を、いったんこれ、社員ではなくて独立をさせまして、形式上、そして会社を作っていただいて、そして、その会社の経理部門を元の経理部長さんが新しく作った会社にアウトソーシングをするとか、あるいは元の営業部長さんが作った会社に営業委託をするとか、こういったことが、経営学ではこれ、アウトソーシングという言い方で割とポジティブに、もちろんポジティブな面もないわけではないわけでありますけれども、非常に盛んに行われ始めております。
 例えば、これは仕事の実態からいたしますと、正に経理部長に引き続き経理部長の仕事をしてもらう、経理課長に引き続き経理課長の仕事をしてもらう、あるいは営業部長は営業課長に引き続きその営業の仕事をしてもらうということで、仕事の内容あるいは指揮命令系統、もちろんリスクの負担とか若干違ってくるかもしれませんが、こういうケースがございます。
 例えばこういう場合は、新しく改正されるところのこの雇用関係に該当するのでしょうか、どうでしょうか。

○政府参考人(房村精一君)
 御指摘のような場合ですと、形式的には契約の当事者は法人、新たに設立された会社ということになります。ただ、御指摘のような、実質的には、その会社の主体である人が、個人が労務提供している、指揮命令系統も従来と変わらない、いわゆる雇用関係と同じような指揮命令がなされている、あるいはその報酬の対価の定め方も労務提供の場合と基本的には変わらないと、そういうような事情があれば、これはあくまでも、法形式ではなくて、その実態に即して雇用関係に基づく債権という認定がなされ得ると考えております。

○鈴木 寛
 ありがとうございました。
 この点については、恐らくいろんなケースがこれから出てまいろうかと思います。そういう意味で、現場、いろんな現場がございます。裁判の現場、あるいはさらに、その前段階の様々な正に労務を提供しているという現場に混乱を招かないように、いろんな形でこの解釈あるいはこの法律改正の趣旨については徹底をさせていただきたいというふうに思いますので、是非よろしくお願いを申し上げたいと思います。
 それでは次に、次の論点に移りたいと思いますが、今回の改正ですね、大変に多岐にわたる改正でございます。その中の大きな柱の一つに、本当に大きな柱がこれまた幾つもあるわけでありますけれども、大きな柱の一つに、不動産競売手続がいろいろな方の存在によって、なかなかいわゆる健全な権利の実現というものが行われていないという実態を踏まえて、この不動産の競売手続をより、何といいますか、ワークするものにしていこうという改正だというふうに私は理解しておりますが、その前提といたしまして、最近の不動産競売手続、あるいは不動産競売の件数とか額とか、これがどういうふうな動向にあって、そして最近の競売はどういう特徴があるのかという、まず実態についてお教えをいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
 不動産競売の件数、それから金額についてのお尋ねでございますが、債権額については裁判統計として把握してございませんので、不動産競売の件数についての御説明をいたします。
 不動産強制競売事件と不動産担保権実行事件の合計数を不動産競売件数として御説明いたしますが、民事執行法の施行以来昨年までの二十二年間の不動産競売件数は、最も少ないときで約四万一千件、最も多いときで約七万八千件となっております。最も少なかったのはいわゆるバブル期である平成二年でございまして、最も多かったのは不良債権処理が活発化いたしました平成十年でございます。平成十年に最多の申立て件数となって以来昨年までの五年間は、不動産競売件数は七万件台という高い数値が持続しておりまして、昨年、すなわち平成十四年の不動産競売件数は七万七千六百七十四件となっております。

○鈴木 寛
 正に今回の改正の理由の一つが、いわゆる悪質な競売妨害というものがその理由の一つだというふうに思っておりますが、悪質な競売妨害が、これ増えているというのがなかなかこれ把握がしづらいとは思うんでございますが、世の中の方に、いかにこの競売妨害というものが問題化しているかということについて、何か御説明をしていただけるデータなり実態なりがございましたら、よろしくお願いを申し上げたいと思います。

○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
 競売妨害につきましては、執行官からの報告というようなことで裁判所としては把握するということでございますが、現状を申しますと、競売妨害には二種類のものがございまして、競売妨害はかつてからあったわけですが、なお大変厳しい状況にあるということでございます。二種類のうちの一つは粗暴な行為による妨害でございまして、もう一つは第三者の占有による妨害というものでございます。
 粗暴な行為による競売妨害の事例といたしましては、例えば暴力団の看板を掲げまして建物内に暴力団員を出入りさせる、敷地内に大量の土砂や産業廃棄物を運び込む、それから建物をペンキなどで汚損するというような事例がございます。また、建物の敷地内にドーベルマンなどのどうもうな犬を放し飼いにする、あるいは最近の事例では建物内にワニを飼育するというような事例もございます。
 次に、第三者の占有による競売妨害の事例といたしましては、看板や表札を掲げて占有を仮装するということに始まりまして、占有屋が自ら住み込み、あるいは占有屋の配下の第三者を住まわせるというような形態の妨害もあります。あるいは、事情を知らない外国人などの第三者に物件を占有させるというものもございます。最近の特に悪質であると思われる事例といたしましては、身寄りのない老人を連れてきまして、競売建物に住まわせて執行妨害をするというようなものもございます。

○鈴木 寛
 私も執行官の方々の大変な御苦労について勉強をさせていただきました。本当に大変だなというふうに思いましたし、今、最高裁の方からも非常に生々しい御報告をいただきまして、十分この立法、必要性があるなということを確認をさせていただいたわけでありますが、正にこの法務委員会、あるいは国というものは正義の実現というのは極めて重要だというふうに思っております。正にそうしたけしからぬ事態に対して我々断固取り組むんだと、こういうことで今回の改正案を御提出をされているんだと思いますし、我々も審議をさせていただいているんだというふうに思います。
 そういう中で、正に日本の正義を実現をする森山法務大臣、是非この改正についての、特にそうした悪質な競売妨害に対して断固臨むんだと、そういう姿勢について御答弁をいただきたいと思います。

○国務大臣(森山眞弓君)
 大変恐縮でございます。
 不動産競売手続に関しましては、平成八年と平成十年に民事執行法が改正されまして、執行妨害対策の強化などが図られてきたところでございますが、その後も、今お話がございましたような思いも寄らないやり方をいろいろと使いまして、いわゆる占有屋等による執行妨害がなくなっておりません。更なる対策を講ずべきであるというふうに指摘されております。
 そこで、この法案におきまして、民事執行法上の保全処分の発令要件を緩和するとともに、保全処分の相手方を特定しないで発令することができるようにするなど、不動産執行妨害への対策を強化することによりまして権利実現の実効性の確保を図りたいと考えております。

○鈴木 寛
 どうもありがとうございました。
 今回の、正にこの不動産競売手続の改正でございますけれども、関係条文が非常に多岐にわたってございまして、要は実務制度上、今までと今後とどういうふうに違うのかというのはかなりこれ複雑な規定になっておりますので、民事局長にお願いをしたいんでございますが、正に不動産競売手続というものが今後どういうことになるのかということを、実務のこの段階、順を追って御説明をいただきたいというふうに思います。

○政府参考人(房村精一君)
 今回の不動産競売手続の改正、委員も御指摘のように多岐にわたっております。そういうものを総合して何とか執行妨害等に対する対応をしていきたいと、こう考えておるところでございます。
 順次改正内容を御説明させていただきますと、まず第一に、執行妨害で不動産の、不動産といいますか、目的物件の価格を下げるような行為、先ほどもありましたが、暴力団の看板を出したりいろんなものを運び込むと、こういうものに対応するために現行法でも保全処分が認められております。しかし、この保全処分は不動産の価格を著しく減少する行為という要件を満たした場合に発令できるとなっておりますが、最近の妨害の態様が非常に巧妙化して、なかなか「著しく」ということを立証するのが困難だという指摘がございました。それを入れまして、今回、「著しく」という要件を落としまして、不動産の価格を減少する行為を行っていれば保全処分が発令できると。これによりまして、相当程度に対応が可能になるのではないかと思っております。
 それから次に、そういう法的手段を取りましても仮に裁判所の命令を取っても、その現場に行くと占有者が既に替わってしまっている。占有者がくるくる替わっておりますと、結局そのために手続を一からやり直さなければいけないと。こういう手口で免れておるという指摘がございましたので、今回は、そういう占有者が具体的に特定できない場合には占有者を特定しないまま裁判所の命令を発令する、その命令を持って現場に行って執行するその段階で占有者を特定すればいいと、こういう新しい制度、従来の手続に比べますと相当思い切った制度でございますが、こういったものを工夫いたしました。
 これを活用していただければ、今暴力団が盛んに行っておりますそういう占有者がくるくる入れ替わることによって法的手続を免れていると、これに対しては対抗できるのではないか、こう思っております。
 それから、そもそもそういう占有している人がだれであるかを特定するために執行官が調査に赴くわけでございますが、これに対して質問に答えないというような事例が間々ございます。現行法では過料の制裁しかありませんので、これを、罰則を強化いたしまして、その制裁の強化によって適切な質問権の行使をして、これによって占有者の特定を図っていくと、こういうことも考えております。
 手続的には以上のような工夫をしているところでございますが、更に進みまして、いわゆるそういう執行妨害をする人たちに濫用されにくい実体法の規定を整備すると。こういう観点から短期賃貸借制度について思い切った見直しを行って、これを廃止すると同時に、保護されるべき占有者を保護するための明渡し猶予制度、あるいは抵当権者の同意を得て対抗力を与える制度と、こういった新しい制度を作ることによりまして、より合理的な抵当物件についての利用権の保護、こういうものを図っていきたいと、こう考えているところでございます。

○鈴木 寛
 どうもありがとうございました。
 今御説明のございました新しい不動産競売手続のそれぞれ幾つか懸念されることについては、午前中の千葉委員の質疑の中で明らかにされましたので、私は少し違う観点から御議論をさせていただきたいと思います。
 今も局長の御答弁の中にありましたように、今回、私は日本の法制史に非常に残る改正だというふうに思っております。それはいろんな観点がありますが、民法本体に手を付けたと。これは先ほどの参考人の御質疑の中でもございました。もちろん、成年後見法の改正はございますが、いわゆる民法の財産法の絡みで言えば、昭和四十六年以来三十年ぶりに民法本体に手を付けたということでありまして、恐らく来年からの大学の民法の講義の中ではこのことは必ず触れられるんだというふうに思います。
 加えまして、私は、今回、不特定の者に対して様々な処分、命令を出せるということに踏み切られたと。これは正に執行の現場あるいは権利実現の現場の状況にこたえてといいますか、正に悪質な占有屋と称せられる方々の不正行為に対する措置として、今回の改正の内容については私は基本的には賛成をいたしております。
 むしろこれは、私は発展的な議論をという意味で議論を提起させていただいているわけでありますが、これも、日本の民事訴訟法というのは、およそ請求は当事者、請求の趣旨及び原因によって特定されなければならないということを民事訴訟法の一番最初の授業で教わるわけですね、これ。
 今回の、もちろん訴訟法あるいは執行法、保全法、何か所か出てまいります、民事執行法の五十五条の二、民事執行法の二十七条、民事保全法の二十五条の二などに。要するに相手方を特定しないでという条文が幾つか出てまいりまして、正にこのことはエポックメーキングなことだというふうに、私はポジティブに申し上げているわけでありますが、いうふうに思います。
 それで、ちょっと話は飛びますが、この三十年間、民法あるいは民事訴訟法をめぐっていろんな学説あるいは判例の積み重ねによって議論になっていた、あるいは懸案として積み残されている問題というのは幾つかありますですね。今回、強制執行における間接強制の補充性の御議論には今回立法でもって決着を付けたということで、非常に今までの議論がすっきりしたということで、これは私は正に立法がきちっと今までの学説とか判例のいろいろな議論の積み重ねの上に、しかし最後に決着をさせたという意味でいい事例だというふうに思っております。本当は時間があれば、こちらの方もきちっと御議論をさせていただきたいわけでありますが。
 そういう中で、正にこの訴訟物の抽象性といいますか、特定の基準というものも本当にこの何十年間か、学説、判例というものが様々に割れてきた、あるいはそうしたものの積み重ねが行われてきた分野だというふうに思います。正に、請求の特定と、それによって連結される執行の可否というものをどういうふうに考えたらいいのかという基本原則を、正に清水の舞台から飛び降りて、一歩ジャンプをして新しい事態に対応していこうと、こういうことだというふうに思うんでございますが。じゃ、これ、私の問題意識は、どういう方針でどれぐらいジャンプするのかと、こういうことがやっぱり、これは明らかに日本法制史の新たなページを開く立法例になるわけですね。今回は正に係争物が不動産であると。
 それから、ここはちょっと御議論を深めたいわけでありますが、訴訟のところをいじっているのか執行のところをいじっているのか、どこの部分を、その清水の舞台を飛び降りたのかということについてのちょっと御議論をいただきたいわけでありますけれども。
 幾つかの限定があります。限定がありますけれども、この立法例が次なる立法に多大な影響を与えると思いますので、その辺り、何のどういう点について踏み込んだのかという、大英断を下したのかという、日本法制史に残るであろう民事局長からの御答弁をいただきたいと思います。

○政府参考人(房村精一君)
 確かに御指摘のように、大学で訴訟法等を勉強した身からいたしますと、相手方を特定しないで裁判所が命令を出すというのはほとんど信じ難いような思いもするわけでございます。
 ただ、この問題が起きましたのは、もちろん実際の必要性があるからではありますが、同時に、なぜ、では訴訟手続等、保全も含めてですが、当事者を特定しなければならないのかということを考えますと、大きく分ければ二つの理由があるだろうと。
 一つは、裁判所の命令が効力を生ずる相手が決まらなければ全く意味がないわけですので、そういう意味で、その効力が生ずる相手をはっきり決めなければいけない、それが一つでございます。それからもう一つは、その手続内で裁判によって不利益を仮に被るとすれば、自らの地位をきちんと防御できなければならない、そういう意味で、手続としては当事者が特定していないといけない、この二点だろうと思います。
 今回、問題になっております部分を見ますと、現実にくるくる替わって困っているということは当然前提としてあるわけですが、もう一つは、そういう執行のレベルで申し上げると、保全処分の効果の相手は執行の時点で特定すれば、効果の相手方としては正に一番必要な人をそこで捕まえられるわけでありますので、そういう裁判の効果を帰属させる相手を特定するという観点からすれば、現に執行する段階で特定すれば足りるということはまず言えるわけでございます。
 次に問題になりますのは、じゃ、そうしたときにその人の権利が不当に害されないのか、防御の機会が与えられなくていいのかということになるわけでございますが、これは正に保全処分の密行性という観点から、現実には相手方を審尋したりするということは一切いたしません。相手方に知らせないままに審理をいたしまして、発令をして、送達も執行と同時でいいと。正に、事前に知らせますとくるくる替わられてしまうという、そういうことがあるので、現実の保全処分等の発令というのは密行性が要求されております。その保護はどうやって図るかといいますと、それに対する執行抗告を認めると、こういう形で保護が図られております。
 したがいまして、実際の今の実務の運用に照らしても、発令段階で相手方を特定して防御の機会を与えなくても、それは発令後、特定された者が執行抗告の機会がきちんと保障されていれば、それは今特定して発令している場合とほとんど大差がない、そういうことがございます。
 したがいまして、特定をしなければならないという二つの要求に対しまして、いずれもその執行の段階で特定をすれば満たせると。あくまで、この当事者の特定というのはアプリオリに要求されているわけではなくて、今申し上げたような必要性があるから認められているわけでございますので、現実のそういう困難が生じているということと今のような事情を併せ考えますと、今回やりましたような思い切った制度というものも決して従来の制度を本質的に変えたわけではない、従来なかった新しい制度ではありますが、従来考えていた当事者の保護というものは十分図られていると、こういう具合に考えております。

○鈴木 寛
 今回の正に考え方については、今整理していただいて分かったわけでありますが、実は私は、つい最近まで、この物中心社会のルールメーキングあるいはそのエンフォースメントから、正に情報中心社会といいますか、情報社会におけるルールメーキングとそのエンフォースの問題というものをいろいろ考えてきた者なわけでありますけれども、現実的要請といいますと、一つ例を、このジャンプはいろんなところに使えるという一例として御紹介を申し上げるわけでありますが、ソフトウエアのいわゆる不正利用といいますか、これは大変な社会問題の一つであります。正に、先日まとめられました知的財産の、知財本部の閣議決定、計画ですか、そこでも、知財立国の中の極めて重要なポイントの一つは正に知的財産権を有するソフトウエア、その侵害という問題でございました。
 これは、恐らくソフトウエアが不正に利用されている事案というのは世の中にもうあまた存在しているだろうということは大いに予想が付くわけでありますが、しかし、この侵害者を特定をして、そして更にその侵害を差し止めるとか、あるいは侵害をさせないと、正に知的所有権に基づく、財産権に基づく妨害排除請求とかあるいは妨害予防請求というのは極めて難しいと、これが正に知財にかかわるルールメーキングとエンフォースメントの本質的な悩みなわけであります。
 今回、正に不動産であります、係争物は。それから、請求内容は占有移転の禁止とか明渡しとかと、こういうことでありますけれども、そもそもこうした制度の目的は、一定の侵害結果を生ぜせしめないためにどういう制度設計をするかということでいろんなことがなされているんだと思います。
 そのときに、その反対項の悪影響といいますか副作用が最小化されていればいいんだと、正に最小化されているという御答弁だったというふうに今の御答弁は思うわけでありますが、そうしたときに、しかも、本件は担保物権に基づく請求でありますけれども、今の例えば知的財産権でも、フルサイズの要するに所有権に基づく請求権、物権的請求権でありますから、そういう意味では、例えばこの場合も正に特定することが極めて難しいという事情、ある意味ではもちろんこのままそっくり活用できるとは思いませんけれども、しかし、今まではこんなことはおよそやってくれないだろうと、法務省はと、世の中思っていましたが、それ以外の方法論でもっていろんな知恵を絞ってまいったわけでありますが、こういうこともいわゆる現実的ニーズがあればやるんだということは、正に世界各国でそういうリーガルエンジニアリングといいますか、新しいその法技術を革新をして、それを、実務をより新しいニューオーダーを作っていこうという人にとっては大変なメッセージなわけでありますけれども、そういったことについても、是非、今回の改正を機にこの民法、民事訴訟法のそもそも論ですね、民法は作られて大体百年たったというふうに理解をしておりますけれども、物中心社会から情報中心社会の中で、恐らくこの民法典、民事訴訟法と、体系というものも抜本的に作り直さなければいけないと思うんですが、そういう検討、あるいはそういう視点というものについて、局長はどのように御理解をされ、どのように取り組んでおられるのかということについて御答弁をいただきたいと思います。

○政府参考人(房村精一君)
 裁判手続の場合は、原則はやはり両当事者がその手続内でお互いに攻撃、防御の方法を尽くして、その上で裁判所が判断をするというのが原則だろうと思っています。したがいまして、そういう原則からすれば、当然、訴え提起の段階あるいは申立ての段階から当事者を特定するということが望ましいことだろうと思っております。
 ただ、今回お願いしましたような、なかなか当事者を特定して手続を開始するということが困難な場合があるというのも事実だろうと思います。そういう場合にどういう方法が取り得るかということは、そのいろんな実情によってまた違うと思いますが、一般的に申し上げれば今回のような考え方というのも十分あり得るだろうと。どうしても当事者を特定して裁判をするということが困難であり、しかも特定しないで行ってもその相手方の保護に欠けることがないというようなそういった事情があれば、それはそういうものにふさわしい手続を工夫する余地はあるだろうと思っております。
 が、現在の段階で、私どもとして民事法の分野でほかにあるかと言われますと、それは具体的に思い当たるところはありません。しかし、必ずしも今回のこの手続に限らず、今後手続等を見直すときには、その手続の要求している各要件についてその根拠までさかのぼり、かつ実態の必要性、こういったものにも配慮をして検討はしていきたいと、こう考えております。

○鈴木 寛
 もちろん、これ、大変な改正といいますか、大原則の変更を提起をさせていただいておるわけでございますので、直ちに今日それ以上の御答弁をいただけるということは、今の御答弁でも非常に踏み込んでいただいて有り難く思っているわけでありますが、しかし、非常に大事な話ではあるというふうに思っております。
 今は知的財産権についての御議論をさせていただきましたが、これもまた延々続いている議論といたしまして、例えば生活妨害の差止め請求という話についても、結局、この抽象的請求権をめぐって、あるいは特定の基準をめぐってずっとこの学説あるいは判例というものが割れてきました。しかし、要するに今回のことは、およそ権利者の権利というものをきちっと実現をしていこうという基本に立ち返って、もう一回法制といいますか、あるいはその執行も含めて、訴訟、その立法と訴訟と執行と、この三段階をきちっと見直しましょうと、こういうことだというふうに思っておりますので、そういうこの何十年間積み残されている問題に対して、是非、この分野以外にも果敢に私は、少なくとも検討は取り組んでいただいたら有り難いと思いますし、これはなかなか司法改革だけの議論では済まない議論だと思います。
 およそ今後の正に立法府が行う立法というものの基本的な考え方というものをどういうふうにデザインをしていくかという根本論にも立ち返りますので、今私が申し上げていることは、もちろん民事局長にお願いするとともに我々の問題として受け止めなければいけないというふうに思っておりますが、正に民事局長が平成の梅先生になれるかどうかというところにも懸かっておりますし、是非法務大臣にお願いを申し上げたいのは、民法典ができるときは伊藤博文は必ずその会議に出席をしていたという事例もございますので、正にそうした意味でも、政治家がイニシアチブを取りながら専門家の方々と協調して新しい法体系を作るその端緒に今回の改正がなることを祈念をいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
 どうもありがとうございました。
 


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