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 日本の進むべき道〜情報化の視点から〜


おはようございます。ご紹介いただきました鈴木です。本日のテーマは「日本の進むべき道」ということで、構造改革や日本の産業構造、そして教育改革についてお話をしたいと思います。

1.産業構造改革と予算構造改革の必要性
 小泉内閣の構造改革の失敗は、「何を」構造改革するのかが提示されなかったことにあります。そのために、今日、構造改革イコール不良債権の処理だというような話になっていますが、私は構造改革の対象となるべきは、1つには「産業」構造の改革、2つにはそれを実現するための「予算」構造の改革だと思っています。そう思い始めたのは、1992年、私が通商産業省にいた頃でした。現在、社会経済生産性本部の常務理事をしていらっしゃる中野さんが、この産業構造転換の重要性を通産省で最初におっしゃったと思います。
 通産省では、毎年4月ごろから新政策の検討を始めます。この産業構造転換政策議論も、7〜8月末に開かれる産業構造審議会までは非常に調子よく進むのですが、8月31日に概算要求を出す頃になると尻すぼみになって、年末には結局、各省庁の予算配分は変わらないということになってしまいます。結局、毎年同じことの繰り返しでした。また、経済産業構造の改革のための予算構造の転換を見るうえで私が重要だと思っている指標の1つは、例えば公共事業関連予算と高等教育・研究開発関連予算の比率です。日本の場合、この比率がいまだに6〜7対1であるのに対し、アメリカ、フランスは1対1、イギリスやドイツは0.7〜0.8対1という割合です。私は、日本の社会を産業社会から情報社会へ変えていくためには、こうした予算の使い方を抜本的に変えていかねばならないと思っています。
IT化と情報化は根本的に違った概念です。今までの産業社会は物でしたが、それに代わって情報が非常に重要だという価値観の下に社会を作り直していくことが、情報社会の創造なのです。
 私たち心ある若手官僚は、1992〜93年の段階でこの産業構造転換の問題について警鐘を鳴らしましたが、これはあえなく潰れました。私はその後4年間、通産省の情報関係のセクションを渡り歩き、情報化による産業構造の転換を訴え続けてきました。しかし、ゼロシーリングという硬直した予算構造の中では、単年度の補正予算で対応するというかたちで、延べ数千億円の補正予算がついてもなかなか有効な手は打てず、結局ハードウェアを買って終わりという連続だったのです。
 自民党政権下では、予算構造転換は不可能だとあきらめて、私は1999年通産省を去りました。その後小泉政権が生まれるのですが、結局、去年の予算案を見ても、省庁別の予算比率は0.1%も変わっていません。さらに、現在論議を呼んでいる道路公団の改革も、その法案が出てくるのは次期通常国会ではなく次々期であり、来年度予算には全く反映されません。さらに言うなら、再来年度予算でも6兆円を道路で使い、その5%、2500〜3000億円が与党に政治献金で入ってくるという構造が変わらない限り、予算構造改革は期待薄なのではないでしょうか。なぜなら、自民党に入ってくる政治献金が増えるか増えないかという指標で予算構造を決定しているのが自民党ですから、ここが民主党との最大の違いです。

2.産業構造転換と雇用の創出
 現在は5.5%と戦後最大の失業率を記録しているのみならず、新しく無業者というカテゴリーの人たちが60万人いるとされています。さらに深刻なことは、15〜24歳の若年労働者層の失業率が9%弱に達していることです。これに無業者を足すと若年労働者の失業率は1割を超えてしまい、全体の失業率も6.3%ほどになってしまいます。
 これも産業構造の転換について、政府がきちっとした手を打ってこなかった結果です。まず、為替レートを円高に大幅にシフトしていくというプラザ合意(1985年)の段階で、製造業の国際競争力が減ぜざるをえないことは明らかでした。そこで、1986年から内需主導型に経済政策を転換するわけです。それがバブル経済につながってしまったわけですが、90年までは輸出型製造業の雇用減少分をハード型の内需産業で吸収することで、対応することができました。しかし、1992年にバブルの崩壊が明らかになり、いよいよ本格的に産業構造を転換しなければならなくなるのです。
 私は製造業は付加価値を創造する産業としては、今でもなお有効な産業だと思います。どんどんもうけていただいて、税金を払ってもらわなければいけません。しかし、雇用を作り出していく産業としては厳しいものがあります。これは1985年、あるいは1992年にちょっと考えればわかることでした。1990年の製造業雇用1500万人に対し、2001年の雇用は1280万人であり、この220万人の雇用減を何で補っていくかを真剣に考えるべきだったのです。ここで、ヨーロッパやアメリカは大変な生みの苦しみを味わいながら、基本的には通信を含めたサービス産業がそれを吸収していきました。すなわち、経済のサービス化、知的経済化の推進によって産業構造を変えていく戦略をとり、それが情報社会としての今日のテイクオフをもたらすこととなったのです。アメリカではこの間、日本からの厳しい追い上げの中で、製造業の1400万人の雇用減を1600万人のITを含むサービス産業の雇用増で補っていったわけです。
 ところが、日本では、逆に1990年の建設業従事者558万人を1995年に660万人に増やしています。すなわち、製造業の雇用ダウンを公共事業を増やすことによって建設業で吸収するという従来型の安易な方法で乗り切ったのです。特に地域産業の減少分を建設業で補おうという政策をとり続けました。そして、この間、100兆円の赤字国債を追加増発してきたのですが、2001〜2002年にはさすがにこの政策を続けることが不可能になり、今のようなデフレスパイラルを招いています。
 地方経済での雇用確保は重要な問題です。しかし、今の税金の使い方は間違っています。つまり、公共事業では、事業費に対する人件費比率は5%なのに対し、福祉関連では60%ですから、同じ税金を投じたときの雇用創出効果は、介護などのヒューマンサービスが公共事業の12倍ということになります。よって、民主党は公共事業を3割減らして、その分を福祉や教育、環境という人件費比率の高い分野に回すことを提案しています。また、畑で頑張っておられる現場の農業者にはもっと支援してもいいと思っています。ただ、農家3軒に1人農協職員がおり、また、農業予算が農業土木予算になるという予算構造があるので、まず今の政官財の癒着構造を変えなければならないということなのです。

3.パッケージ財産業からライブ財産業へ
 通産省内でも私たちの世代は製造業単独での復権は難しいと考えました。私はこれからの産業は、パッケージ財産業とライブ財産業とに分けて考えるべきだと思います。
 音楽のライブとパッケージを例にとりますと、CDにするのはパッケージ化することであり、コンサート収入はライブの対価です。ライブ財はTPOによってサービス提供のかたちが変わっていきますが、パッケージ財は変わりません。
グローバル経済の下でパッケージ財産業で勝負をしていくのは本当に大変です。パッケージ財の競争は、まさに資本力、総合力のぶつかり合いになりますので、おそらく世界のシェアのトップ3番手までに入っていないと厳しいでしょう。 しかしこれは、ニッチの中でもグローバル3であればいいわけです。そういう意味では、中小企業でもその分野で世界の3つに入っているところは、徹底的にR&Dと人材にリソースをつぎこみながら競争していけばいいので、ハードウェアを中心に、日本でも頑張っていける分野が相当あると思います。そして、政府はこれに人材や税制面での最大限の支援をしなければなりません。しかし、そこに雇用まで期待しては、こうした企業の国際競争力を減ずることになります。日本で雇用確保を期待できるのは、ライブ財産業です。
私は今回の情報革命の意義は、基本的にはインターネットとパーソナルコンピュータの登場にあると思っています。それにより大企業だけではなく、だれでもインフォーメーション・プロセッシングの道具であるコンピュータとデジタル・コミュニケーションの道具であるインターネットを持つことができるようになりました。コミュニケーションのパーソナライズ化が革命的に進んでいるのです。個人レベルのコミュニケーションが飛躍的に充実することによって、コミュニケーション・インダストリーが次代の機関車になると思っています。コミュニケーションは、常にライブ(生きている)です。特にヒューマンサービスです。人間と人間がインターラクティブにコミュニケーションしていくところに新たに付加価値が生ずるのです。しかもこのコミュニケーション型産業は、非常に付加価値が高く、利幅も大きいのです。一方、国際競争力にさらされたパッケージ型産業は、売上は大変大きいのですが、利益率は大変低くならざるを得ません。

4.産業構造のサービス化と製造業の生き残り策
 そこでITなのですが、サービス産業の付加価値の源泉はカスタマイズとタイミングであり、ITがなければ、すべてのクライアントにカスタマイズし、タイミングを合わせていくサービスにはものすごくコストがかかります。すなわち、今、IT技術をヒューマンサービスの質の向上に結びつけることが求められているのであり、その際に、どこまでカスタマイズしていくかが産業の情報化のキーワードになってきます。
 例えば、今話題になっているERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)は、それぞれ、従業員のIT武装化と情報共有、供給側の企業すべてのIT武装化、顧客側のIT武装化を意味し、これらによって、情報の受発信が質量ともに充実し、きめ細かいサービスが提供され、そこから付加価値が生まれるのです。さらに今度はユーザーどうしがその商品についていろいろなうわさを立てていき、それがさらにその商品の付加価値を高めていくCM(コミュニティ・マーケティング)が生まれます。これが可能になるためにはユーザーすべてのIT化が必要であり、それによって産業構造のサービス化が完成するのです。
 それでは、世界トップ3に入れない製造業の生き残りをどう考えればいいのかというと、私はサービス業支援型製造業を目指すべきだと思っています。サービス業を展開するためには、必ずハードウェアとソフトウェアとヒューマンウェアの3つがインテグレイトしなければいけません。例えばこの帝国ホテルにアラブの大金持ちが来て、「明日までに背広を作れ」というオーダーが出たとしますと、それを作れれば、材料費でいえば1万〜1万5000円の背広で120〜150万円取れるわけです。まさに経済のサービス化ですが、それを可能にするには、洋服を縫うための縫製工場やテーラーが近くにあることが必要です。多くの製造業はこのようなサービス業支援型の製造業として生き残ることができると思います。
 実は私たちが製造業だと思っているもので、その付加価値の源泉はすでにサービス業になっているものも多くあります。例えば、中国の製造業に日本の製造業が今も勝っているところは何かといえば、機械が故障したときに、どこの部分が壊れていて、それを速やかに復旧させるためには何をしたらいいのかがわかる、まさにラインの補修と機械修理という部分です。このコア・コンピタンスは、機械修理業というサービス業の部分を日本の製造業がまだ持っているということです。それならば、機械修理のノウハウだけを維持する部分を残し、世界中の機械のメンテナンスに特化していくようにビジネスモデルを変えていけばいいのです。
 もう1つ中国に勝っているのは、OJTでの人材養成です。実は私がよく行く大田区の中小企業は、もうメーカーではなく、OJTの教育機関であり、機械修理業です。その意味で、これからはありとあらゆる産業が、今申し上げた意味でのサービス化をしていくことが必要でしょう。

5.個人消費拡大のための施策
 経済政策とは非常にシンプルなもので、企業設備投資、個人消費、個人住宅投資のいずれかを刺激するか、公共事業をやるか、輸出を増やすかしかありません。GDPを決めるのはこの5つです。このどれを刺激するかが問題です。今は日本のGDPの3割は官需で、7割が民需ですから、もう官需で経済の立て直しをすることは不可能なのです。そして、民需の中でも特に重要なのは個人消費と企業設備投資です。すべての政策資源をこの2つを刺激することに集中させることが重要なのですが、それにもかかわらず、補正予算の議論などを聞いていると、官需を刺激することによって経済浮揚を図ろうという姿勢がいまだに直っていないと指摘せざるをえません。
 個人消費を刺激するのに必要なことは、各家計の可処分所得と可処分時間を増やすことに尽きます。この10年間の個人消費の動向を見ると、20代と60代の消費性向が変わっていないのに比べ、30代、40代、50代は、可処分所得が下がっているために消費が落ちています。これを上げるためには、教育費、住宅費、親の介護、医療費の負担を軽減する必要です。この観点からいうと、最近の医療費増や介護保険費の増額はマイナスの方向でしょう。
 では財源はというと、10兆円の公共事業費を3割圧縮すれば、3兆円の財源が出てきます。地方を含めた公共事業費は40兆円です。地方もやりたくないのに、中央から公共事業の予算が下りてくるので、その裏負担を半分させられるという構造になっているわけです。ですから、国庫補助金という紐付きでなく、地方交付税というかたちで税財源を移譲すれば、介護や福祉、医療の充実に地方も予算を使うことができるようになります。私たちは、予算の量より質を問題にしているのです。
 すなわち、第1に年金の問題等、将来の不安を減らし、可処分所得を増やすことによって、この世代の個人の購買力を上げていくことが必要なのです。規制緩和はそれなりに進んでいますから、そうすることによって、そこに向けて新しいヒューマンサービス業がいろいろなかたちで出てくるでしょう。そこはまさにマーケットのオリジナリティにまかせればいいのです。また、ヒューマンサービス業を運営していこうと思えば、当然そこにソフトウェア、ハードウェア、ヒューマンウェアも必要ですから、それぞれの産業で、その拡大する購買層に向けた新しい産業ができてきます。
 また、サービス消費の特徴は、ユーザーの所得と同時にユーザーの「可処分時間」の関数でもあるということです。今、3日の連続休暇ができ、ワークシェアリングの議論が始まっていることは、世の中の可処分時間を平準化していくためには好ましいことです。世の中の7〜8割を占める勤労世帯の可処分時間を増加させるという観点での政策が求められていると思います。

6.企業の設備投資拡大のための施策
 民需刺激の二つめは、企業の設備投資です。不良債権処理の問題で、致命的に金融庁が間違っていることが2つあります。まず、不良債権問題を裏返して言えば、企業の債務返済能力向上ということになりますが、その観点がありません。例えば、世の中全体の購買力が上がり、最終消費財が売れれば、当然、生産財や中間財も売れていって経済が回り始めます。また、カスタマイズされタイミングに応じたサービス産業をやろうとすれば、当然、IT投資も増えていくでしょう。要するに企業が債務を返済するには、キャッシュフローが必要なのですが、その各企業のキャッシュフローをどう増やしていくかという論点がないのです。
 もう1つ、私は竹中さんは非常に優秀なマクロ経済学者だと思いますが、経済政策としてはミクロ経済の施策も車の両輪として同時にやらなければいけません。特に、「非上場企業」の企業設備投資に対して、どう刺激策をとるかという論点が今の政策には全く欠如しているのです。日本には120万の株式会社がありますが、上場しているのはそのうち3500社だけで、しかも120万のうち数十%は赤字企業です。上場企業の場合は無形資産を含む企業のアセットが株価で一応数値化されていますが、非上場企業の場合は、資産の中で暖簾や営業権、知的財産、ノウハウという無形資産のウェイトが非常に大きく、しかもそれを評価する方法がありません。しかし、金融庁の紋切り型のマニュアルでは、預金、土地などという有形資産だけで見ることになっているため、私たちから見て、中小企業の2割ぐらいを占める潜在的な競争力を持つ企業に対しても、むしろ貸し剥がしが起こっているのです。この2割の企業が設備投資資金が調達でき、投資が上がってくれば、生産財のマーケットはぐっと増えてきます。
 私はこの2つの施策によって、ポジティブ・スパイラルを作り出すことができると思います。そして同時に不良債権の処理を進めるという両輪政策をやればいいのです。私はこれをずっと主張してきています。

7.教育改革の重要性
 さらに、大学を知的情報社会の主役として位置づけることが必要だと思います。例えばスイスのIMDのスコアでも、日本の大学の競争力は毎年47〜48の調査国中、いつも最下位です。中国では、新しいベンチャー企業への出資はほとんど大学が行っており、次なる情報社会のプロデュース機能を大学がいかんなく発揮しています。シリコンバレーもスタンフォード大学があったから成立したのであり、サンマイクロシステムズのサンは、スタンフォード・ユニバーシティ・ネットワークという意味です。ですから、私がこの1年間やってきたことは徹底した大学改革です。
 また、産業構造転換においては、その産業を担う人材の育成は非常に重要です。しかし、今でも日本では、情報関係の修士より土木関係の方が定員が多いと思います。最近、スタンフォード大学へ行ったところ、今までITをやっていた人がメディカルITのことばかり聞くので、なぜかと思ったら「メディカルと言わないとリストラされる」と言うのです。日本とは2世代違って、今や米国ではITの定員を減らしてでもバイオに移行させているのです。そういう意味で、学部・学科を自由に作り、改編できるということは、一大学にとってのみならず、日本にとって非常に重大な問題です。
 私が通産省を辞めて慶應大学に行ったとき、看護医療学部を湘南藤沢キャンパスの3つ目の学部として作ることに携わりましたが、これをやるのに大変な思いをしました。そこで、このたびの臨時国会で学校教育法を改正し、学部・学科の再編については今までの認可制を届出制にしました。また、次期通常国会では国立大学法人法の改正法案を出すところまでいっています。

8.中小企業の育成
潜在力のある中小企業を育てる仕組みが必要と思っています。そのためには少なくとも金融庁より、現場の金融機関がきちんと判断していく方が潜在力のある中小企業を見抜く率が高くなるでしょう。分野によっては専門的な力が必要ですが、今までトライ&エラーで相当高い授業料を金融機関も払っていますので、査定能力は上がっていると思います。むしろ、その査定能力を持つ人材を生み出す教育・研究機関、知の集積機関が日本に全くないのが問題です。ですから、大学の自由化、金融機関の自由化をやっていく中で、外資の人材、外資のノウハウの活用も必要かもしれません。
 また、金融では、最近、事業金融でなく担保金融になっていることが問題です。日本の金融政策がそうさせたとも言えますが、リスクプレミアムを取って可能性のある2割の会社に貸せば、そのうちの2〜3%が倒れても、マクロで見ればうまくいくのではないかと思います。 証券については、規制緩和も進み、新しい金融証券や投資のためのファンドを作るうえでの障害もかなりなくなっていると思います。
私は、さらに今の政策論議で欠けていることとして、新しい政府の役割論を提起したいと思います。特にコストのかかるR&Dやテストマーケティングの最初のところで、補助金というかたちではなく、イニシャル・バイヤーとして政府が登場することが重要だと思います。例えばマイクロソフトのOSの最大購入先はいまだにアメリカ政府です。事業金融やプロジェクト金融では、どれだけその事業やプロジェクトから売上が上がるかがそのリスクを確定することになりますので、政府が買うことが初期段階でコミットできれば、そのリスクが軽減されます。
 最近のeガバメントの話についてですが、光ファイバー空間の整備というIT予算がありました。東京はもう張り巡らされていますので、要するに地方を掘り返して光ファイバーを埋めたいということでした。お金はIT会社ではなく各地域の道路建設会社に落ちます。何の為のeガバメントだかわかりません。
こうしたバカげたことをするのではなく、むしろ政府がひと世代後れたソフトを買わずに、むしろ少し不安定でもチャレンジングでアドバンスなソフトを買って、そのあとを直せばいいと思います。地方公共団体がそうすれば、現在公共調達で3兆円のマーケットが、5〜6兆円となってきます。IT産業の育成には効果絶大です。

9.産業再活性化のためにも教育改革
 私が国会に出るのを決意したのは、慶應の湘南藤沢キャンパスで日本の教育のお寒い状況を見たからです。学校の教員100万人中、約2割は、その質はどうしようもありません。文部省のコントロールが強すぎるのです。今、コミュニティスクール構想というものを出して、学校現場で子どもたちに応じたカリキュラムが作られるように、もっとやる気があってエネルギッシュな人材を外部からスカウトできるようにしようとしています。イギリスではすでにそうなっていますが、ブレア首相はそれを「大事な政策が3つある。1つ目が教育、2つ目が教育、3つ目が教育」と表現しています。
 日本の大学は専門職業能力教育機関としてはワークしていません。今回の学校教育法改正で、専門職大学院という新しいカテゴリーができ、その最初がロースクールです。これからはビジネススクールなど、さまざまな高度職業人の養成をやっていくフレームワークができたと言えるでしょう。
 付加価値を生みだすという意味では、ヒューマンウェア、ソフトウェア、ハードウェアの総合的なシステムウェアが入ったヒューマンサービスをインドと中国に対してやっていくべきだと思います。両国併せると25億人いますので、ドイツもイギリスもアメリカも、政府ぐるみでこの両国に売り込みに行っています。私も、朱鎔基やヴァジバイ首相などをはじめ、両国と多様なチャネルを作ろうと、今、努力していますが、政府、経済産業省、政治家、そして民間の方々も昔に比べるとそういう意思が若干希薄だと思います。中国でのやけどを繰り返したくないという日本企業の躊躇もわからなくはないのですが、20〜30代の若者が70〜80年代のように企業の一線に立って、本気で取り組んでほしいと思います。それも若者教育の問題かもしれません。

2002年12月吉日 
(財)社会経済生産性本部における講演 


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