お断り:このページは、旧サイトのデザインになっており、ナビゲーションメニュー等が一部異なることをご了承ください。
 
 ◆日本の進むべき道 〜経済を如何に立て直すか〜
  『日本の進むべき道』について、経済産業構造改革の視点から、私の持論の一旦を、述べてみたいと思います。

 小泉内閣の構造改革の失敗は、「何を」構造改革するのかがないことにあります。そのために、今日、構造改革イコール不良債権の処理だというような話になっていますが、私はの考える構造改革の目的語は、1つには「産業」構造の改革、2つにはそれを実現するための「予算」構造の改革です。
 経済産業構造の改革のための予算構造の転換を見る上で、私が重要だと思っている指標の1つは、例えば公共事業関連予算と高等教育・研究開発関連予算の比率です。日本の場合、この比率がいまだに六〜七対一であるのに対し、アメリカ、フランスは一対一、イギリスやドイツは〇.七〜〇.八対一という割合です。私は、日本の社会を産業社会から情報社会へ変えていくためには、こうした予算の使い方を抜本的に変えていかねばならないと思っています。
 
 通産省時代、私は、先輩・同僚と一緒になって、懸命に、この問題に取り組みました。しかし、結局、自民党政権下では予算構造転換は不可能だとあきらめ、私は一九九九年に霞ヶ関を去りました。その後、小泉政権が生まれるのですが、今なお、省庁別の予算比率はほとんど変わっていません。さらに、昨年末論議を呼んだ道路公団の改革も、抜本的な改革とは到底言えません。さらに言うなら、来年度予算でも六兆円を道路で使い、その五%=二五〇〇〜三〇〇〇億円が与党に政治献金で入ってくるという、予算配分と政治献金の構造を、自民党政権下で転換することは絶対に不可能です。自民党は、常に、自らに入ってくる政治献金が増えるか増えないか、いかに、その目減りを食い止められるかという観点だけで、予算を決定しているのですから、ここが民主党との最大の違いです。
 現在は五.五%と戦後最大の失業率を記録しているのみならず、新しく無業者というカテゴリーに分類される人たちが六〇万人いるとされています。さらに深刻なことは、一五〜二四歳の若年労働者層の失業率が九%弱に達していることです。これに無業者を足すと若年労働者の失業率は一割を超えてしまい、全体の失業率も六.三%ほどになってしまいます。 私は、製造業は付加価値を創造する産業として、今でもなお有効な産業だと思います。税金をたくさん払っていただけるよう、どんどん儲けていただきたいと思います。しかし、雇用を作り出していく産業としては厳しいものがあります。これは一九八五年、あるいは一九九二年に考えればわかることでした。一九九〇年の製造業雇用一五〇〇万人に対し、二〇〇一年の雇用は一二八〇万人であり、この二二〇万人の雇用減を何で補っていくかを真剣に考えるべきだったのです。ヨーロッパやアメリカは大変な生みの苦しみを味わいながら、基本的には通信を含めたサービス産業が、それを吸収していきました。すなわち、経済のサービス化・ソフト化、知的経済化の推進によって産業構造を変えていく戦略をとり、それが情報社会としてのテイクオフをもたらすこととなったのです。アメリカではこの間、日本などからの厳しい追い上げの中で、製造業の一四〇〇万人の雇用減を一六〇〇万人のITを含むサービス産業の雇用増で補っていったわけです。
 ところが、日本では、逆に一九九〇年の建設業従事者五五八万人を一九九五年に六六〇万人に増やしています。すなわち、製造業の雇用ダウンを公共事業によって建設業で吸収するという、従来型の安易な方法で乗り切ったのです。特に地域産業の減少分を、建設業で補おうという政策をとり続けました。そして、小渕内閣以後、百数十兆円の国債を追加増発してきたのですが、二〇〇一〜二〇〇二年には、さすがにこの政策を続けることが不可能になり、今のデフレスパイラルを招いています。
 地方経済での雇用確保は重要な問題です。しかし、今の税金の使い方は間違っています。つまり、公共事業では、事業費に対する人件費比率は約五%なのに対し、福祉関連では約六〇%ですから、同じ税金を投じたときの雇用創出効果が、介護などのヒューマンサービスは公共事業の一二倍ということになります。よって、民主党は公共事業を減らして、その分を福祉(育児・介護)、教育、環境という人件費比率の高い分野に回すことを提案しています。

 経済政策を立案していく上でのポイントは、企業設備投資、個人消費、個人住宅投資のいずれかを刺激するか、公共事業をやるか、輸出を増やすかしかありません。GDPを決めるのはこの五つです。このどれを刺激するかが問題です。今は日本のGDPの三割は官需で、七割が民需ですから、もう官需で経済の立て直しをすることは不可能なのです。そして、民需の中でも特に重要なのが、個人消費・投資と企業設備投資です。すべての政策資源をこの2つを刺激することに集中させることが重要なのですが、にもかかわらず、補正予算の中身をみると、政官業癒着構造下での政策決定が行われているため、相変わらず官需を刺激することによって経済浮揚を図ろうという姿勢が、未だに直っていません。

 個人消費・投資を刺激するのに必要なことは、各家計の可処分所得と可処分時間を増やし、将来不安を減らすことに尽きます。ですから、可処分所得をゼロにしてしまい、現在及び将来の不安を極大化してしまう失業は、経済に最悪の影響を与えます。ですから、とにかく、失業者を一人でも減らす事が最大の景気対策です。そして、この一〇年間の個人消費の動向を見ると、二〇代と六〇代の消費性向が変わっていないのに比べ、三〇代、四〇代、五〇代は、消費が落ちています。この世代の可処分所得を上げ、将来不安を解消するためには、教育費、住宅費、親の介護、医療費の負担を軽減し、年金を確保することが必要です。この観点からいうと、最近の医療費増や介護保険費の増額は最悪の政策です。家計の購買力を増強すれば、それをめがけて民間が創意工夫を働かせて様々な新規サービスを立ち上げてきますから、家計購買力の強化が、規制改革と並んで最大の新規産業育成策でもあります。

 では財源はというと、国の予算だけでも、一〇兆円の公共事業費を三割圧縮すれば、三兆円の財源が出てきます。さらに、地方を含めた公共事業費は四〇兆〜五〇兆円ですから、一二兆〜一五兆円の財源が生まれてきます。地方もやりたくないのに、中央から公共事業の予算が下りてくるので、その裏負担を半分させられるという構造になっているわけです。ですから、国庫補助金という紐付きでなく、地方交付税という形で税財源を移譲すれば、介護や福祉、医療の充実に地方も予算を使うことができるようになります。私たちは予算の量より質を問題にしているのです。
 
 民需刺激の二つめは、企業の設備投資です。不良債権処理の問題で、致命的に金融庁が間違っていることが二つあります。まず、企業の債務返済能力向上という観点が全くありません。例えば、世の中全体の購買力が上がり、最終消費財が売れれば、当然、生産財や中間財も売れ始めて経済が回り始めます。また、カスタマイズされタイミングに応じたサービス産業をやろうとすれば、当然、IT投資も増えていくでしょう。要するに企業が債務を返済するには、キャッシュフローが必要なのですが、その各企業のキャッシュフローをどう増やしていくかという論点がないのです。 次に、ミクロ経済政策が全くありません。特に「非上場企業」の企業設備投資に対して、どう刺激策をとるかという論点が、小泉政権の政策には全く欠如しているのです。日本には一二〇万の株式会社がありますが、上場しているのはそのうち三五〇〇社だけで、しかも一二〇万社のうち赤字企業も多くあります。上場企業の場合は、無形資産を含む企業のアセットが株価で一応数値化されますが、非上場企業の場合は、資産の中で暖簾や営業権、知的財産、ノウハウ、人材という無形資産のウェイトが非常に大きく、しかもそれを評価する方法がありません。しかし、金融庁の紋切り型のマニュアルでは、預金、土地などという有形資産だけで見ることになっているため、私たちから見て、中小企業の二割ぐらいを占める潜在的な競争力を持つ企業に対しても、貸し剥がしが起こっているのです。この二割の企業の実力が適切に評価され、設備投資資金が調達できれば、新規投資のための生産財の需要はぐっと増えてきます。
 私はこの二つの施策によって、ポジティブ・スパイラルを作り出すことができると思います。そして、同時に不良債権の処理を進めるという両輪政策をやればいいのです。処方箋はこれしかありません。私はこれをずっと主張してきています。
 ただし、こうした正しい処方箋も、政権交代を通じて今の政官財の癒着構造を打破しなければ、つまり政治のOS(Operation System)を変えない限り、どんないい政策も実現することができません。既存の構造を小泉内閣が変革できないと証明されつつある今、私たちが必死でOS変更のための一里塚である政権交代を何としてでも、果たしていかなければと痛感しています。

←BACK ↑TOP