2-5 周産期医療改革 安全に出産する権利を保障
I 周産期医療崩壊―福島県立大野病院での例
2006 年 2 月、福島県立大野病院の産科医が、帝王切開の患者様の死亡に関し、業務上過失致死罪・医師法違反で逮捕されました。本件は約 10 万人に一人の稀有な事例で、事前の確定診断は不可能との声もありました。特に、当該医師のようにたった一人で地域の分娩医療を支えていた状態ではなおさらのことです。 「少ない人員のなか、地域医療を支えるという思いで、全力で治療に望んでも、結果次第で起訴されてしまう。それならハイリスクな治療は回避した方がましだ」との声が地域医療を担う医師の中で強まり、臨床現場に動揺と懸念が広がりました。
これに関し、周産期医療の崩壊を危惧する医療関係者らが、全国の大学・主要病院の院長を世話人として展開した署名活動には、 6520 名もの賛同が集まりました。すずきかんも厚生労働大臣への陳情を調整し、超党派議員と同席しました。
全力で治療に望んでも起訴・逮捕されてしまうリスクがある。たった一人で、地域の周産期医療を担わなければならない。今回の事件は、このような周産期医療の現状を浮き彫りにしました。周産期医療は、すべての母親、すべての生まれてくる子どもになくてはならないものです。そのような根本的な医療で、医師・患者の最低限の権利が保障されなくなっています。
II 産科医、助産師の不足 人材の分散による過酷な労働環境
医師総数自体は漸増しているのにもかかわらず、産婦人科医療施設の従事者は減少傾向にあります。
新臨床研修導入後の平成 16 年卒業医のなかで、日本産科婦人科学会専門に研修を開始した医師は 285 名程度であり、それ以前より約 20 %減少しています。また、平成 17 年卒業医についても専門医研修開始者は 300 名程度 ( 約15%の減少 ) とみられています。平成 19 年度までの 4 年間での、現場への産婦人科医の新規参入の減少は、合計で 820 名程度にのぼるとみられ、これは分娩取扱い施設に勤務する医師の 10 %以上に相当すると考えられます。
さらに、ただでさえ少ない産科医が、減少しているとはいえ未だ多数の地域分娩施設に分散しているため、労働環境が悪化しています。医師が 1 人または 2 人しかいない有床診療所が分娩の約半数を担当しており、また、病院施設でも勤務する産婦人科医は平均三人程度です。
「地域医療システム再編」のところでも述べましたが、週に一回の当直のシフトを組むためには、最低でも 7 人の医師が必要です。今の現状は、一人の医師が週に何回も当直を行い、そのまま通常の勤務を行うという過酷な勤務によって成り立っているのです。そういった過酷な労働環境が産科医の減少に拍車をかけ、更に現場の労働環境を悪くするという悪循環が起こっています。
助産師の不足も深刻です。厚生労働省が平成 17 年 12 月に公表した報告書によると、平成 18 年の助産師の需要見通しが 27700 人であるのに対し、供給見通しが 26000 人で、 1700 人の不足が見られます。実際には、看護師に分娩を行わせている病院もあり、助産師不足はさらに深刻である可能性があります。
助産士の有資格者は 55000 人で、決して少ない数ではありません。いったん結婚し、出産した助産士の方々が、家事や子育てと仕事を両立できず復職できない、多忙な職場に戻りたくないといった原因があるため、助産師が不足しているのです。
では、なぜこのように産科に関わる人員が減少しているのでしょうか。その原因は主に以下の 3 つです。
1 産科特有の問題点が理解されていないし、解決の方向に向かっているとは言い難い。このため医師が産科を敬遠する。
(ア)小規模な施設でも24時間体制が必要
(イ)新しい命・家族の誕生は、当事者にとって本当に大切なことなので、望ましくない結果を受け入れることは難しい。しかし、お産では本当に稀であっても、不幸な結果が起きることがある。このため、どの国でも、産科関連の医療紛争や訴訟が多い。しかし、今の日本ではそれを理解した上で、問題を解決する制度ができていないという、患者・家族にとっても医療側にとっても、不幸な状況にある。
2 産科専門スタッフの養成が不十分である。助産師がその業務内容にふさわしい評価を得ていない。
3 勤務が苛酷であるために産科医師や助産師に多い女性医師・助産師が結婚・出産前後に仕事と家事・子育てを両立できなくなる。
こういった理由が複合して、産科の人員不足をまねいているのです。以下、それぞれに対する解決策を示します。
III 解決策1 医師の産科志向を促進する
医師にとって魅力のない現場であれば、人材が集まらないのは必至です。研究機関の併設や、臨床と研究が両立できるような勤務体制など、若手の医師に魅力的な周産期医療の環境を整える必要があります。もちろん、そのためには、医師の人材集約とシフト制が必須です。 ( シフト制については、「地域医療システム再編」の項を参照 )
IV 解決策2 周産期医療の集約化
しかし、現場の産婦人科医の数を増やすには時間がかかります。今の産婦人科医数で安全な医療を保障するためには、医療人材を集約する必要があります。
集約化は、ほかの地域医療と同じ考えのもとで行います。集約化すべき医療と、地域に点在するべき医療を分けるのです。
(1)地域に点在し、高度な技術を必要とせず、且つ少数の人員で対応可能な周産期医療:妊娠検査、定期健診など
(2)地域に点在し、リスクも低いが 24 時間対応のため人員が必要な周産期医療:低リスクの正常分娩
(3)高い技術と人員が必要な周産期医療:高リスクの妊娠・分娩 ( 早産・母体合併症など )
このように、医療の内容によって集約すべきか、地域に点在するべきかが異なってきます。現在の周産期医療システムは、これらの全く性質が異なる医療を「産婦人科」という括りで同じ施設で対応してきたため、破綻が生じたのです。
集約化、重点化を地域の枠組みで行うことで、各段階の医療が密接に連携しながら、安全なお産を提供できます。めやすとして、 30 ~ 100 万人規模でひとつの地域とすることが考えられます。この規模であれば一つの地域で年間 3000 ~1万件の分娩を扱うことになります。
30 ~ 100 万人という規模で集約化を行うというと、病院の数が減り、病院へのアクセスがしにくくなってしまうと考える方もいらっしゃるでしょう。そういった問題については、医療の集約化とともに、救急搬送体制を整えることで対応します。また、正常分娩を行う施設については、その地域内にいくつも存在するため、通常のお産についてのアクセシビリティは確保されます。
「医療の集約化」に関する具体的な方法、概念図については、「地域医療システム再編」の項を参照ください。
以上のようなコンセプトを各地域でその実情に応じて迅速に具体化させる必要があります。国は、平成20年度の新しい地域医療計画策定の中で、都道府県が迅速かつ積極的に周産期医療に取り組むことができるように、支援していかなければなりません。今の危機を乗り切って、お産のことで国民が一切心配する必要がなくなるように、総合的な政策を立案し、推進していく緊急の必要があります。次の特別国会で周産期医療整備特別法案を提出し、地域の活動を応援することをお約束します。
V 医療 ADR の整備
Iでも述べたとおり、産科は医療事故が起きやすく、常に訴訟リスクにさらされています。産科の人員を増やし、システムを整備すればある程度の訴訟リスクは回避できますが、それに加え、裁判外紛争処理制度 (ADR) を整備し、医師が不本意な訴訟で名誉と感情を傷つけられることを防ぎ、医師の産科離れを防ぎます。
すずきかんは、すべての母親が安心して子供を産める周産期地域医療システムを整備します。
・すべての母親に35万円の出産祝い金を給付します。
・安心して出産できるような地域分娩施設を整えます。