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2-9 未承認薬問題の解決


Ⅰ 背景 医薬品の承認システムとドラッグラグの存在

医薬品は人類に大きな福音をもたらしましたが、同時に多くの副作用を生み出してきました。たとえば、サリドマイドによる新生児の奇形や血液製剤によるエイズ感染は有名です。このように医薬品は人体に直接的に影響し、時に重大な副作用を及ぼすため、その承認・管理を完全に民間の自由市場に委ねている先進国はありません。全ての先進国で何らかの公的機関の管理下に置かれています。

 医薬品が市販され、患者さんのもとに届くには幾つかのステップが必要です。まず、ほとんどの医薬品は製薬企業によって開発され、販売されます。製薬企業は、患者さんのニーズがあり、かつ経営的にメリットがあると判断した場合、医薬品の開発に取りかかります。基礎研究や動物実験を終え、有望と判断された医薬品候補は、最終的には人に投与して安全性と有効性を検証します。製薬会社が行う、このような臨床試験を「治験」と呼びます。製薬企業は、この治験の結果を当局(日本では独立行政法人医薬品医療機器総合機構と厚生労働省)に提出し、医薬品としての承認を申請します。当局によって、その医薬品を承認してもよいと判断されると、初めて市販することが可能になり、医療現場に届きます。

 現在、世界中の製薬企業が新薬の開発にしのぎを削っていて、欧米、および日本が中心的な役割を果たしています。この3つの地域は ICH (日米 EU 医薬品規制調和国際会議)という国際会議で取り決めを交わし、新薬開発を協力することで合意しています。一方、医薬品の効き目や副作用の頻度には民族差があることが分かっています。このため、米国、欧州、日本は、他の地域で承認された薬剤でも、あらためて自国で治験を行い、個別に承認しています。

 世界の製薬業界では米国企業の開発力が高く、多くの医薬品がまず米国で承認され市販されます。このため、海外では市販されている医薬品が、我が国では承認されておらず、使用できないという事態が生じます。また、市販される見通しがあっても他国から何年も遅れているか、市販される目処が立っていないこともあります。このような状況は「ドラッグラグ」と呼ばれ、国内でいまだ承認・市販されていない医薬品は「未承認薬」と言われています。

 日本を含め世界の多くの国で、未承認薬を使用するための代表的な手段は「治験」に参加することです。しかし、治験はあらかじめ決められた基準を満たす人だけしか参加できず、全ての患者さんに治療機会を提供できるわけではありません。また、国内で治験が行われていないことも少なくありません。そのため、治験に参加できない患者のため、治療目的で未承認薬を使用できるようにするための制度を整備している国もあります。一方、日本にはこのような制度が存在せず、多くの問題が生じています。

 諸外国と日本とを比較すると図のようになります。

 

 

 


Ⅱ 未承認薬に関わる様々な問題点

問題点1 未承認薬に関する情報公開不足

 がんなどの命にかかわる病と闘っている患者さんが、海外に有効な薬剤があれば、日本でも同じように使いたいと希望するのは当然です。しかしながら、多くの患者さん、および医療関係者は、我が国での新規医薬品の承認状況や海外での開発状況について、十分な情報を入手出来ていません。

 

問題点2 未承認薬の使用体制の未整備

 諸外国の中には、病状が重篤かつ緊急性を有し、他に治療法がない患者さんに対しては、担当医が当局から許可を得れば、製薬企業から未承認薬の提供を受けることができる制度を有する国があります(コンパッショネートユース(人道的使用)制度)。このような制度があれば、何らの理由で治験に参加できない患者さんも未承認薬を使用できますし、未承認薬によって生じた副作用情報も収集・分析され、患者、および担当医に迅速に提供することが可能です。残念ながら、日本にはこうした制度がなく、未承認薬の使用手段は後述の個人輸入に限られています。

 製薬会社からの提供によらず、医師あるいは患者本人が治療目的で海外から未承認薬を購入することを個人輸入と言います。コンパッショネートユース制度が存在しない我が国では、個人輸入は多くの患者さんの救済に寄与してきました。しかし、明確なルールがなく、輸入可否の審査が実質上行われていないことから、個人輸入に伴うさまざまな問題が指摘されています。

 

1) 日本で未承認の医薬品は健康保険が適用されず、患者さんに高額の負担が発生します。

2) 健康保険が適用されない未承認薬を、他の保険診療と併用することは、混合診療と解釈される可能性があり、医療機関にとっても大きな問題です。

3) 各医師、患者さんがばらばらに輸入するので、使用状況や副作用などのデータを当局(厚生労働省や医薬品医療機器総合機構)が収集・把握することが出来ません。このため、万が一、薬害が生じたときに迅速に対応できません。

4) 未承認薬を用いて健康被害が発生した場合の補償制度がありません。

5) 患者さんが未承認薬の使用を希望した場合、どの病院が引き受けてくれるか情報が公開されていません。

 

 

問題点3 治験体制の未整備

 厚生労働省は国内の治験の体制整備に力を入れています。具体的には、厚労省は治験の拠点病院を選定し、治験推進のために多くの予算を計上しています。しかしながら、このような試みでは、ナショナルセンターや旧国立病院などの厚労省管轄病院に重心が置かれ、文部科学省が所管する大学病院などとの連携が不十分です。大学病院は唯一の医育機関であり、両者が連携しなければ十分な効果は期待できません。

 また、厚生労働省は「未承認薬使用問題検討会」を開催し、タイムラグの短縮に努めています。具体的には、この検討会は我が国で早期に承認すべき未承認医薬品をリストアップし、製薬企業に対して速やかな治験開始、および早期の承認申請を要請します。このような産官学の連携は一定の効果を上げているものの、これだけでは不十分です。「欧米で承認された医薬品」が検討対象になっている以上、原理的にタイムラグの短縮には限界があります。

 この問題を根本的に解決するためには、我が国の創薬レベルが向上し、我が国が中心となって開発した医薬品が海外でも承認されるような体制を構築し、製薬産業を育成することが必要です。また、海外が主導で医薬品が開発されている場合でも、日本が国際共同治験の枠組みに参加して、我が国も海外と同時期に承認できるように対策を練らねばなりません。このあたりの体制整備は、まだ不十分です。

 

 

問題点4 医薬品医療器機総合機構の重点化、および審査業務に従事する人材の養成

 医薬品の承認審査の現場に「現場の声」、すなわち実際に薬を使う医師の声が生かされているとは言えません。我が国で、承認審査を行っている機関は「医薬品医療機器総合機構」ですが、実際に承認審査に関わっている職員は平成 18 年 4 月時点にて 200 名弱で、うち、臨床医は 20 人を下回ります。

 承認審査に関与する医師が少ない原因は、医師の医薬品開発、薬物治療学に対する意識の低さにあります。日本の医療界では「医薬品に関することは薬剤師の仕事」という観念があり、医学部においても医薬品に関する教育はおろそかにされています。そのような空気のもとでは、医師が医薬品の審査、即ち薬事業務に関わることは決してキャリアアップとはみなされず、医師は審査に関わることを好みません。また、医薬品の承認審査という、社会的使命の大きい仕事があるという事自体が、医師に十分知られていません。

 実際に患者と向き合い使用する薬を決定するのは、ほかでもなく現場の医師です。現場の医師は実践的な知識を豊富に持っています。実際の治療の状況を想定していない現実離れした審査が行われないためには、医薬品の審査の場で臨床医が参加することが重要です。

 

 

Ⅲ 解決策

解決策1 情報公開の促進

 国内、および海外の医薬品の開発状況を、患者さん、医療関係者向けに情報公開するような仕組みを作ります。国内で行われている治験に関しては、製薬企業や治験関連企業が情報公開に努めますが、未承認薬に関する情報は殆ど公開されていません。後者に関しては、医療機関、行政機関、学会、 NPO 団体などが情報収集、情報公開に努めることで、患者さんの治療選択肢は増えます。

 

 

解決策2 コンパッショネートユース制度の導入と安全な個人輸入薬の使用体制の構築

 先日,厚生労働省はコンパッショネートユース制度導入を検討することを発表しました。しかし,その内容はまだほとんど議論されておらず、実現には数年はかかりそうです。製薬会社によるコンパッショネートユースは是非とも望まれる制度ですが、同時に現行の個人輸入のあり方を改善していくことも重要です。まず、未承認薬の個人輸入制度は、一部の患者さんにとって必要不可欠であるという現実を直視する必要があります。しかしながら、未承認薬の個人輸入の実情については、あまり情報がなく、その実情は把握されていません。今後、適当な機関が医薬品の個人輸入の実情を調査し、その情報を国民に公開することが重要です。

 さらに、患者さんが安心して個人輸入した薬剤を使用できるようなルール作りが必要です。現在、個人輸入される医薬品の品質を評価する制度はなく、患者さんが輸入した医薬品がきちんと品質管理されているか検証できません。また、個人輸入薬の副作用情報は十分に公開されているとはいえず、患者さんにとっては危険です。たとえば、個人輸入した薬剤による副作用の収集制度はありません。また、我が国では製薬企業が治験を行ったが、最終的に副作用などの問題で厚生労働省から承認されなかった医薬品の情報は公開されていません。このような薬剤が海外では承認されている場合、患者さんは危険性を知らずに個人輸入してしまうことがあり得ます。未承認の医薬品に関しては、個人輸入を行っている病院・患者のデータを公的機関が管理して安全対策に反映させるとともに、個人輸入に伴う薬害などの事故に関する情報は患者・医療者に公開し、医療現場・患者さんが迅速に対応できるようにする必要があります。

 最後に、個人輸入薬による副作用についての補償制度も整備する必要があります。この点については、これまで殆ど議論すらされていません。多くの国民、専門家の意見を集める必要があります。

 

 

解決策3: 治験体制の整備

 現在、厚生労働省や医師会、各種学術団体が中心になって遂行している治験の体制整備は非常に有用なものであると評価します。これまでの取り組みに加え、文部科学省が管轄する大学病院、民間の医療法人と有機的に連携すれば、地域の特性にあった制度、運営を確立することができるでしょう。また、大学や大学院に、医薬品開発に従事する専門家を育成できるような講座を設置すれば、人材育成も促進できます。これまでの厚生労働省の取り組みは、このような主として文部科学省系の組織との調整が不十分でした。

 欧米、および日本の大手製薬企業は、治験のスピードアップを目的として、治験の国際化を進めています。つまり、一つの治験に複数の国の医療機関が参加するわけです。このような国際治験への参加は、欧米とのドラッグラグを解消するためには、もっとも効率のよい方法です。ただ、我が国の法体系や医療機関は治験の国際化に対応できておらず、体制整備が必要です。

 但し、このような試みを通じて、医薬品のタイムラグがなくなった場合、ひとつ気をつけておくべき事があります。それは、日本国内で海外と同時に新しい医薬品の治験を実施するということは、海外で既に承認されて使用患者さんの数が十分にある医薬品を使う時よりも、安全性のリスクが高くなるということです。したがって、治験中の安全性を見守る役割を担う規制当局(医薬品医療器総合機構)の審査員の質・量の確保を行う必要があります。

 製薬企業にとって、新薬の経済的評価、つまり薬価は極めて重大な問題です。折角、有効な新薬を開発しても、十分なリターンが期待できなければ、製薬企業は我が国での開発を取りやめ、欧米に持って行かざるを得ません。我が国で治験が進まない原因の一つに、このような新薬の薬価の問題が考えられます。後発品の積極的な導入と同時に、新薬については適切な価格を設定することが重要です。

 

 

解決策4 医薬品承認の体制整備

 医師の承認審査への参画を促すためには、医学部教育の改革が必要です。従来の医学部教育では、医薬品開発、治験、承認審査等に対して重点が置かれていませんでした。しかしながら、医薬品審査であれ、治験への参加であれ、医薬品の開発に医師の参加は必須であり、そのためには医学部教育のカリキュラムに導入する必要があるでしょう。また、メディカルスクール導入後は、実際に薬を患者に使うことを念頭に置いたうえでの実践的教育を行い、医学生又は医師の医薬品に対する意識を高めることも有用でしょう。

 医学部やメディカルスクールで、医薬品の開発や薬物治療に関する教育を取り入れることにはもう一つの利点があります。医薬品の開発や承認審査での知識や経験が豊富な医師を教員として迎え入れることが必要になるため、医師が承認審査に関わることがキャリアアップのひとつになります。これにより、後続の医師の承認審査にたいするモチベーションアップにつながり、承認審査に医師が多く関わるようになります。医師が承認審査に更に参画することで、医療機関と承認審査の「現場」がより密接にコミュニケーションをとれる、現場に即した承認体制が実現できます。

 

 

すずかんは、未承認薬問題に取り組みます。

・「承認のタイムラグ」に関する情報を、国民、および医療関係者がアクセスしやすいように、情報公開に努めます。

・新薬については日本が中心となった開発や、海外との同時開発が可能となるような体制を整備し、医薬品を海外に遅れることなく国内でも使用できるようにします。

・製薬企業によるコンパッショネートユース制度を導入します。また、未承認薬についての情報公開を進め、安全な医薬品個人輸入制度を整備します。

・医学部教育に医薬品開発を取り入れます。

 

 

 

 

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